彼:
大学時代、学食のチキンカレーをよく食べていた。通常のカレーより二十円程安価であった、というのがその理由であるらしい。
なおパウチパックのインスタントカレーは好まない。具材の量が少ないからだ。

後輩:
ありし日々、ポークカレーばかりが供される家庭で育った。
それに反抗してのことなのか、ネグレクトされ、事実上の独居を始めて以降は、チキンカレーばかりを自作していた。


◆【20161020】
「ごはんを作り過ぎたいのです」
「……作り過ぎる?」
「作り過ぎたごはんを、『作り過ぎちゃった』なんて言い訳しながら、先輩にお裾分けしたいのですよ。一種の浪漫というやつです」
「ふむ。……ならば、厚かましい物言いにはなるのだろうが、是非とも作り過ぎて欲しい。そしてお裾分けして欲しい。なるほど一種の浪漫としてな」
「ん。じゃあ、先輩。何を作り過ぎちゃいましょうか。……いえ、率直にお聞きしますが、先輩は、作り過ぎちゃった何を食べたいですか?」
「……。では、すまんが、カレーを」
「了解しましたっ。不肖、後輩、きっちりばっちり気合を入れて、カレー……ええと、チキンカレーを作り過ぎます!」
「チキンカレーか」
「チキンカレーなのですよっ!」


◆【20161021】
「さて先輩。今日はカレーを作り過ぎます。チキンカレーを作り過ぎます。ついついうっかり作り過ぎます。そもそもカレーはいっぱい作るのが常ですし、二日三日に分けて食べるのも当たり前、『作り過ぎた』なんてことはあり得ませんが、それでも作り過ぎちゃいます」
「あ、ああ」
「また言うのなら、『作り過ぎたから食べてくれない?』というしちゅえーしょんでは、普通、既に作った料理をタッパーやジップロックに詰めるものです。でも今回はカレーなのです。作り過ぎたカレーなのです。流石に鍋ごと持ってくるわけにはいかないですし、冷凍したのを持ってくるのも何か違う気がします。……そういうわけで、今回は、先輩の部屋、他ならぬ先輩の部屋のキッチンで、作り過ぎることにしました」
「すまん。俺の不用意な発言が切欠で、多くの苦労を掛けさせている」
「あはは。大丈夫大丈夫。……ぶっちゃけて言っちゃいますと、作り過ぎるとかではなくて、普通にチキンカレーを拵えるだけのことなので」
「まあ、そうだな」


◆【20161621-2】
「……ところで、先輩」
「うむ」
「これからカレーを作るとなると、まず最初にするべきことは、一体何だと思います?」
「それは、……玉葱を炒める、だろうか。それもまた、鼈甲飴が如き色になるまで」
「せーかいです。玉葱が柔らかくなり、ペースト状になるまで火を通したら、突き刺すような辛さがなくなって、甘味が内から滲み出してくるようになります。それがルー全体にも行き渡るから、最終的に、おいしいカレーが出来上がります」
「なるほど」
「ですが。ですけど。先輩」
「な、何だ?」
「今回はチキンカレーです。チキンは鶏肉。鶏肉といえば鶏皮。鶏皮といえば圧倒的な油分の宝庫!」
「なるほど。……つまり、この調理過程に於いて、最初にフライパンに落とすべきは玉葱でなく――」
「――そう。皮です。鶏肉から引っぺがした皮なのです。鶏皮を炎熱地獄の刑に処し、宿した油を絞り出してやるのです。そしてまた、その油で以て玉葱を炒めるのです。こうすることで、玉葱に濃厚な風味が付与されるだけでなく、副産物たるかりっかりの鶏皮炒めも出来ちゃいます!」
「……流石。流石だ。流石は君だ。鶏皮マスターの称号を贈るとしよう」
「えへへ。褒めても何も出ませんよ。……いえ、カレーが煮えるまでの時間に小腹を満たす、鶏皮炒めは出しますけどね」
「何たることだ。何たることだ。至れり尽くせりではないか」
「ねぎとポン酢も添えちゃいますよ!」


◆【20161021-3】
「玉葱は綺麗な飴色に炒め上がって、ついでに鶏肉の皮もねぎとポン酢でおつまみへと転身し、ついでに言えば、先輩はビールを飲み始めてしまいました」
「すまん。すまん。本当に申し訳ない」
「あはは、いえいえ。先輩はいつもお仕事でお疲れですし、週末ぐらいはぐだぐだゆるゆるしちゃって下さいな。ねぎポン鶏皮炒めに関しては、私も頂いてしまってますし。……さてさて、先輩」
「ああ」
「ここから先が、カレー作りのメインイベント。つまるところに、鍋に玉葱以外の具材を放り込み、火を通してゆくわけですよ」
「うむ。……具は主役たる鶏腿肉と、色鮮やかなる人参、そして馬鈴薯。基本的な布陣だな」
「基本とは王道、王道とは覇道です。お肉、にんじん、じゃがいも、これだけで十分です。……ちなみにですが、にんじんとじゃがいもは、それぞれ電子レンジで加熱済み。時間短縮なのですよ」
「何と。いつの間に」
「先輩がお酒と肴に舌で太鼓を演奏しておられる間に、です。……じゃあ、根菜類を投下しますね。それから主役の鶏肉も。ごろごろー、っと」
「ごろごろー、っと」


◆【20161021-4】
「適度に火が通ったら、水を入れ、灰汁を取りつつ、弱火でことこと」
「うむ」
「そして材料が柔らかくなったら、カレールーを投入します。……ああっ、手が滑った。一箱まるごと入れちゃいました。えへへ、作り過ぎですね」
「八皿分か。作り過ぎだな。元から具材も水も多かったがな」
「それは言わないお約束」
「すまん。お約束は大事だな」
「よしっ。……さあて、先輩。後はもう煮込むだけです」
「米も冷凍しておいたものがある。文字の通りに、待つ他ないな」
「……それにしても。何と言うか、完成したときの華やかさに比べて、作る過程は基本的ですよね。カレーって」
「確かにな。炒め、煮る。難しいことは市販のルーが片付けてくれる。難を言えば、後片付けが多少面倒であるというぐらいか」
「こびりついちゃいますからねえ、どうしても」
「まあ、何だ。洗い物ぐらいはさせてくれ」
「ん。お願いします」


◆【20161021-5】
「そういうわけで、先輩。ちょこっとばかり、茶番にお付き合いして下さいな」
「ああ。これも必要な儀式だな」
「こほん。……あの、先輩。実はですね、つい先程まで、先輩のキッチンをお借りして、チキンカレーを作っていたのですけれど」
「そうなのか。気付かなかった」
「でもですね、分量を間違えちゃって。具体的には、カレールーを、一箱丸ごと入れちゃいまして」
「災難だったな」
「だから、先輩。もしよかったら、一緒に食べてくれますか?」
「それは……」
「先輩?」
「……勿論だ。否定する理由が何一つない。喜んで頂こう」
「あはは。ありがとうございますっ」


◆【20161023】
「秋ですねえ……」
「ああ。いよいよ本格的に秋だ。……夕刻の風は木々を紅に染め燃やし、大気を冷え冷えとした青へと落とす」
「ええ。そしてまた、秋風は人の世にも吹き渡り、誰も彼もを感傷的な心持にさせるのです」
「うむ。違いない」
「感傷的と言いますと、具体的には、肉まんが食べたくなったり、おでんが食べたくなったりと」
「酒を燗して飲みたくなったりな」
「それからついでに、水炊き鍋をこさえたくなったりも」
「そうだな。……鍋。鍋か」
「ええ。鍋。鍋ですよ。秋はお鍋の季節なのです」
「であるのならば、致し方ない。……やるか、鍋」
「やりましょう、鍋っ!」


◆【20161025】
「コンビニのレジ横で、肉まんが売ってますよね」
「そうだな。ある意味において、この国における秋季の風物詩であるとも言えるだろう」
「あんまんもありますよね」
「ああ。確実にあるな」
「それからついでに、ピザまんもありますよね」
「それもあるな。あの薄橙色は印象的だ」
「……でも。でもですよ。先輩」
「どうした?」
「ピザまんって、なに?」
「……」
「肉まん、あんまん、そこまではいいですよ。でも、どうしてここでピザなのですか。何で唐突にピザなのですか。はっきり言って、めちゃくちゃ浮いてますよね?」
「い、言われてみれば……」
「陰謀ですよっ。これは某国の陰謀ですっ。トマトソースとチーズで以て、日の本の民を支配せんとする陰謀ですっ!」
「落ち着け」


◆【20161027】
「突然ですが、告白します」
「……告白?」
「ごめんなさい、先輩。何も言わずに、どうか聞いて欲しいのです」
「あ、ああ」
「実は私、古くなって穴の空いた靴下とかを、それと知っていながらも、暫く捨てずに着用し続けていることがあります」
「……そうなのか」
「ごめんなさい。ごめんなさい。こんな後輩でごめんなさい」
「それは……、まあ、気に病むな。女性用の肌着各種は、男性用のそれより高価であると聞き及ぶ。そう頻繁に買い換えるのも難しかろう」
「うぅ。男の人の下着には、最初から穴が空いているからいいですよねえ」
「君は何を言っているんだ」
「いえ違うんです、勘違いしないで下さいっ。流石に破れたショーツは穿いてませんよ!?」
「落ち着け」


◆【20161030】
「時間はお金で買えないものだ、なんて。よく聞く台詞ですけれど」
「まあ、聞くな」
「……買えますよね? 時間。お金で」
「それは……、ふむ。解説を頼みたい」
「たとえばですね。列車で遠出をしようというときに、特急券ぶんお金を出して、鈍行ではなく新幹線を使ったならば」
「……なるほど。金は掛かるが、早く着く。であればつまり、金で時間を買ったと言える」
「ですですよ。それに先輩、似たようなのは、色々あると思うのです」
「そうだな。自ら作れば労力が掛かる料理も、レストランでなら直ぐ食べられる」
「ゲームでも、普通は入手に時間が掛かるレアアイテムが、りあるまねーで買えちゃったりとかするようですし」
「そして何より、金さえあれば、仕事を辞めて浮いた時間を、趣味なることに充てられる」
「……ん。先輩」
「ああ」
「欲しいですねえ、お金。こう、六億円ぐらい、非課税で。ぽんと」
「否定の余地がない。欲しいものだな、六億円。非課税で。ぽんと」


◆【20161031】
「じゅーがつ、さんじゅーいちにちっ」
「神なき月も末日か。時の流れの疾きことは、常に人を驚かせるな」
「ええ。ちょっと前まで夏休みだった筈なのに、びっくりですよ」
「うむ」
「そして、先輩」
「どうした?」
「びっくりと言えば、驚かす。驚かすといえば、いたずらです。……いたずらといえば、はろいんですよ!」
「……全く。またぞろ何かしでかそうというのか、君は」
「むっふっふ。私はこの一年で成長を遂げました。もはや去年の私とは、一回りも二回りも違うのです」
「何と。恐ろしいことだ」
「安心して下さい、先輩。今年の私は、何もしません。おねだりなんてしませんし、いたずらしたり、いたずらさせたりもしないのです」
「そうなのか」
「だって、先輩。先輩はもう、私のからだに、いけないいたずらをしちゃいましたし」
「……」
「それに私も、先輩に、いけないおねだりをしちゃってますし」
「……」
「だから、ね、先輩? お祭りになんてかこつけなくても、いたずらとか、おねだりとか、十分しちゃってるわけですから。私達には、ハロウィンなんて要らないのです」
「……そうか。分かった。では君は、冷蔵庫のキャラメルケーキは食べたくないと。了承した。俺が一人で片付けることにしよう」
「あっ、要ります要ります! それは要りますごめんなさい!」


◆【20161101】
「もしもし」
『もしもし。先輩』
「何だ。今日は久々に会わなかったな。……達者だったか?」
『あはは。ええ、達者も達者、お達者です。なにごともなくつつがなく、今日も一日生き延びました。ごはんも食べて、シャワーも浴びて、後は寝るだけなのですよ』
「そうか」
『先輩、ちゃんとごはんは食べました?』
「ああ。パスタを茹でた。ツナマヨのソースを絡めて食べた」
『おお、奇遇ですねえ。私もツナマヨパスタを食べました』
「なるほど。お揃いか」
『えへへ。何だかちょこっと、嬉しいですよ。こういうの』
「ああ」
『先輩。パスタ、美味しかったですか?』
「うむ。美味かった。して、君は?」
『それはもちろん、美味しかったです。先輩が、そう感じられたのとおんなじに』
「それは良かった」
『……んー。んーふふ、んふふふふ」
「御機嫌だな」
『ごきげんですよ。ですですよっ』


◆【20161101-2】
『先輩』
「ああ」
『明日、また先輩のお部屋に泊まりに行きたいです。大丈夫ですか?』
「勿論だ。明後日は休日だしな」
『えへへ。一緒に夜更かししちゃいましょうね』
「望むところだ、と言っておこう。……折角の機会だ。映画を観るのもいいかもな」
『お。じゃあ、明日の夕方、借りに行きます?』
「そうしよう」
『ん。……いいですねえ、いいですよねえ。こう、未来に楽しみなことがあるって』
「同意する。君との逢瀬が待つならば、明日までは生き延びてやろうと思える」
『じゃあ、先輩』
「ああ」
『また明日。また明日、お会いしましょうっ』
「……ああ。また明日」


◆【20161102】
「先輩。先輩っ」
「ああ」
「先輩。――ただいま!」
「ああ。――おかえり」


◆【20161103】
「文化の日ですかー……」
「文化の日か……」
「あー。文化。文化ですかー。文化の日スペシャルですかー」
「文化とは、果たして何であったというのだろうか」
「昨日の夜から、先輩と、ごろごろして、いちゃいちゃして、ぐだぐだして、八時のアラームを寝過ごして、気付けばもう十一時半」
「……」
「あは、あはは。文化、文化って……、文化って、一体」
「……に」
「に?」
「二度寝は。文化だ」
「わー、文化だー。二度寝は文化だー」
「……」
「……」
「……うむ。シャワーを浴び、朝餉を終えたら、散歩にでも出るとしようか」
「おお。文化的に」
「ああ。文化的に」
「ところで、先輩。先輩が作って下さる、今日の朝ごはんのメニューは何ですか?」
「バタートースト、ベーコンエッグ、小松菜の胡麻和え」
「いえい、文化だっ!」


◆【20161108】
「人が死ぬような映画は好きですけれど、そういうジャンルの中においても、好き嫌いというのはあるものです」
「人が死ぬ、と言えば……まあ、スプラッターか?」
「ですね、すぷらった。ゾンビとか、モンスターとか、そういう類が好きなのです」
「うむ。俺も決して嫌いではない」
「でもですね。私、本当にグロテスクなものというか、観ていて気分が悪くなるようなのは、実を言えばちょっと苦手で」
「ふむ」
「人が死ぬ。それはそれでいいのですけど、内臓とか脳味噌とかが、ぐっちゃりばっちり出て来ているようなのは、こう、ちょっと。……すぽーんと首が吹っ飛んだりとか、馬鹿で愚かな登場人物が因果応報的に死んだりとか、そういう純粋な爽快感を求めているわけでして」
「……うむ。分かる」
「それと、突然びっくりさせてくるようなのも苦手です。あまりに安っぽいのも忌避しちゃいます。……こんなふうに、すぷらったな映画を観るのは好きなのに、色々文句を付けちゃっていて。わがままなのでしょうか、私?」
「そんなことはない。映画を好むと好まざるとに、我儘などあるものか。好きなものを好きと言い、嫌いなものを嫌いと言う。これの何が悪かろう?」
「……ん」
「趣味、娯楽。それ即ち、純然たる楽しみの為にだけ求めるものだ。ならばこそ、拘りを持つのは当然だろう。遠慮する必要などはない」
「……じゃあ。先輩」
「ああ」
「人がたくさんすかっと死んで、でも過剰にグロテスクな場面はなくて、胸が悪くなるような展開もない。もしよかったら、そういう映画、紹介して頂けますか?」
「了承した。心当たりが幾つかある」
「おお。流石は先輩っ」


◆【20161109】
「……んー。映画、映画……」
「うむ」
「それは勿論、レンタルしてきたDVDを観るのも楽しいですが。……でも、こう、リアルタイムで上映中のを観に行くのって、独特の情緒があると言いますか。ただ映画だけに没頭出来る世界と言いますか。『映画館』ならぬ、『映画感』があると言いますか」
「そうだな。言わんとすることは伝わる。……他に何も気にしなくていい。外界の喧騒に邪魔されることもなければ、突然の電話に煩わされることもない。映画館のシアターは、それそのものが切り離された別世界であると呼び得るだろう。つまるところに、非日常の体験だ」
「ん、ですです。そういうのです。流石は先輩、分かってらっしゃる」
「いい文化だな、映画は」
「いい文化ですよ、映画は」


◆【20161109-2】
「映画館と言いますと、ショッピングモールの中に作られることも多いものです」
「うむ」
「駅前に出て、映画の世界に身体も心も浸し切り、パンフレットも買っちゃって、天井知らずのはいてんしょん。お財布を縛る紐も、ゆるゆるになるというものですよ」
「そうだな。致し方ない」
「そうすると、モール内のファストフード店とか、フードコートとか、そういうところでご飯を食べちゃいたいと思うのも、何ら不思議はないことだと思うのです。こう、わざわざ遊びに来たのだから、贅沢に外食して帰らないと嘘だ、と」
「ああ。映画の半券を提示することを条件に、割引になる店もあるしな」
「ええ、ええ。……いいですよねえ、ふぁすとふーど、ふーどこーと。ハンバーガーやチキンは勿論として、たこ焼きとか、ラーメンとか、ハンバーグにステーキに、その他諸々、選り取り見取り」
「丼、パスタ、石皿料理に、蕎麦だのピザだのクレープだのと。まさしく以て、選り取り見取り」
「本当に贅沢しちゃうと、開場前の時間潰しにたこ焼きとポテトをつまみつつ、鑑賞後にはパスタとピザを貪るという、夢のようなプランも立てられちゃいます」
「ああ。それもよかろう、悪くなかろう」
「……ん。先輩」
「ああ」
「こんど、映画、観に行きません? 当然ですが、じゃんくなご飯も予定に入れて」
「うむ。行こう」


◆【20161109-3】
「先輩と、デート。映画デート」
「付き合いは短くないが、こうした機会はなかったな」
「えへ。えへへ。えへへへへ」
「舞い上がっているようだ」
「ああいえ、違います、違うのです。舞い上がってはいますけれども、浮ついているわけではないのです。映画はきっちりちゃんと観ます。それは勿論、先輩ともらぶらぶいちゃいちゃいしたいですけど、そこは映画と切り離します。鑑賞的な態度を真摯に持って、きちんと真面目に観るのです」
「重要なことだな」
「でも、その後は……、ね。先輩」
「ああ」
「先輩と、ふふ。フードコートでそれぞれ好きな料理を頼んで、映画の感想を語り合ったりしながらも、お互いのごはんをつつき合ったり。そういうのをね、先輩?」
「ああ。……楽しみだな」
「ええ、楽しみ。楽しみです」


◆【20161113】
「ふぁ……」
「……」
「ん、くぁ。……んー。……あぁ、せんぱいだー」
「いかにも。先輩だ」
「えへへ。せんぱい、だいすきですよー」
「ああ」
「……んー」
「……」
「ん、――にゃっ。先輩!?」
「ああ。先輩だ。紛うことなき違うことなき、ただ君だけの先輩だ」
「せ、先輩。ひょっとして、もう起きていらっしゃいました?」
「なに。起きていたという程のこともない。つい十分程前に目を覚まし、そのまま羽毛布団に包まりながら、君の寝顔を楽しんでいたというだけのことだ」
「……うぅ。不平等、不平等です」
「ふむ」
「かくなる上は、先輩。これから二度寝をして下さいっ。そうしたら、私も先輩の寝顔、いえ寝尊顔を楽しませて頂きますから。それはもう、えんたーていんめんとさせて頂きますからっ」
「……寝尊顔?」
「先輩。二度寝。二度寝です。二度寝というのは楽しいし、気持ちいいものでもあるのです。であるからして、先輩も二度寝したいですよね? したくないわけがないですよね?」
「あ、……ああ、うむ、分かった。把握した。了承した。そうだな、うむ。二度寝がしたい心持になった」
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