彼:
最近、毎晩寝際にゴアトランスを聴いているらしい。

後輩:
最近、クリームのアルバムを集め終わったらしい。


◆【20160922】
「じゃんけんをしましょう、先輩」
「よかろう」
「相手が先輩だとしても、手を抜いたりしませんよ。じゃんけんは手でやるものですし」
「最初はぐー、などとも言わん。初手より奥義にて仕る」
「……ん。この身は破壊の剛腕であり」
「殺戮の双刃であり」
「屍を包む大紙だから」
「故にこそ、勝負は一間。惨憺たる死と破壊の一瞬間。息も吐かせぬ刹那の死闘」
「……先輩。そろそろ御託はいいですね?」
「ああ」
「じゃあ、いきましょう」
「うむ。いくさの時だ」
「どちらかが倒れ……!」
「どちらかが残る……!」


◆【20160923】
「……あはは。また、しちゃいましたね」
「してしまったな」
「秋の夜風は涼しくて、火照りをそれが冷していって。それでもまだ、身体の奥で疼くものは収まらなくて」
「ああ」
「色々と、思うところはあるわけですよ」
「ああ」
「甘い声とか、本当に出ちゃうんだなあとか。体験したことがない感覚とか、本当にあるものなんだなあとか」
「ああ」
「あとね。……先輩って、こういうのが好きだったんだなあ、とか」
「……すまん」
「いえいえ。お互い様というやつですよ」


◆【20160925】
「……ん、と」
「どうかしたのか」
「ええと、先輩。思い出せそうなのに思い出せない単語があって、もやもやと」
「力になれるかも知れん。語の切れ端や、似た雰囲気の単語などは思い浮かぶか」
「えくすとら……、いくりぷす、りぶすぶれーど、あすとりぶら?」
「……ふむ。ラテン語か?」
「あ、ですです。たぶんそうです」
「『エクスリブリス』。蔵書票だな」
「それだーっ!」


◆【20160927】
「後輩ですよー」
「うむ」
「後輩なんですよーっ」
「そうだな」
「でも、もしかすると、後輩じゃないかも知れないですよ」
「そうなのか?」
「ねこかもです」
「ねこだったのか」
「ねこだにゃーん」
「なるほど。ねこだな」
「でもですよ、本当に本当のところを言うと、ねこじゃないかも知れないのです。後輩なのかも知れないのです」
「ふむ」
「後輩だにゃーん」
「哲学的だ……」


◆【20160928】
「発音、変ですよね。『費用対効果』」
「変、とは?」
「ひよーたい・こーか、って。まるで『費用対』の『効果』みたいに。言葉のつくりを見る限りでは、『費用』『対』『効果』なのに」
「言われてみれば。『費用』と『効果』の『対比』、と解釈するべき単語だな」
「バーサスものですよ、費用対効果。ゴジラバーサスキングギドラとか、貞子バーサス伽椰子みたいな」
「……費用対効果、劇場版?」
「二大怪獣『費用』と『効果』が、東京の街を火の海に変えるのですよ!」
「経済戦争か!?」


◆【20160929】
「『彼と後輩』」
「何と。メタネタか」
「『彼と後悔』」
「後悔すること幾星霜、星より数多の後悔みを背負って生きた命だったが、君の先輩であることに後悔などはしはせんぞ」
「『彼と航海』」
「ふむ。船旅もいいな」
「『あれと後輩』」
「あれとは何だ、あれとは」
「――こほんっ。『彼と後輩』、大好評連載中!」
「だといいが」
「なんと書籍化も決定!」
「大きく出たな」


◆【20160930】
「時間は二度と戻らない」
「……」
「時間は、二度と、戻らないのです。絶対に、絶対に。何を犠牲にしてでさえ」
「……」
「たとえば、先輩。昨日食べたかった肉まんを今日食べたとして、『昨日食べていた筈の肉まん』は、決して取り戻せはしないのです。それは消えてしまったのです。永劫の闇に消失し、もはや手を届かせること叶わないのです」
「……ああ」
「また言うのなら、『昨日眠っていられた筈の二時間』。無為に無意味に起きてしまっていた二時間。ぐっすり眠っている筈だった二時間。これも消えてしまったのです。どう嘆いても、何に幾ら祈っても、取り返すことは出来ないのです。……出来ないのですよ」
「そうだな。違いない」
「先輩。ねえ、先輩」
「ああ」
「私は。……私は。一分、一秒、一刹那。これ以上、何も取り零したくないのです。何も失いたくないのです。私は。何も。もう二度と」
「……そうか」
「だから、先輩」
「ああ」
「先輩。抱いて下さい」
「……。了承した」


◆【20161001】
「マフィンって、二種類ありますよね」
「あるな。カップケーキに似た菓子のマフィンと、平べったく白いパンのマフィンか」
「ですですよ。……後者の方は、ファストフード店の朝食メニューでも出てましたっけ。初めてあれを知った時には、なかなか衝撃を受けましたけど」
「そうだな。これもマフィンという名なのか、と。これの何処がマフィンなのか、と。……マフィンとは、一体何であったのか、と」
「同じようなの、タルトでもありましたよね」
「う、うむ」
「タルトといえば、普通、あんこを包んだロールケーキ状のものなのに。クッキー生地のパイっぽい変なお菓子が、なんで『タルト』なんて名前なのかと――」
「残念ながら、そのネタは、愛媛県民にしか通用せんぞ」
「い、一六タルト万歳っ!」


◆【20161002】
『もしもし、先輩。俺俺、俺だよ』
「ふむ。詐欺か」
『突然ですけど、車のドアに腕をぶつけちゃって。どうしてくれるんじゃい。腕の骨、折れてるんじゃい」
「……」
『折れ折れ詐欺です』
「詐欺というより、恐喝に類するものではないか?」


◆【20161003】
『もしもし、先輩。俺俺、俺だよ』
「ふむ。詐欺か」
『突然ですけど、オレオを久し振りに買ったら、何だか味が変わってて。どうしてくれるんじゃい。ナビスコじゃないんかい』
「……」
『オレオ詐欺です』
「もはや詐欺でも何でもないな。ただの愚痴だな」


◆【20161004】
「ネタ切れです」
「ネタ切れなのか」
「私達も人間ですし、そう毎日毎日、小粋なトークや、小生意気なジョークを繰り広げているわけじゃないのです。ええ、面白いネタが思い浮かばない日だってありますよ」
「……小粋なトーク? 小生意気なジョーク?」
「そういわけで、先輩。今日は黙って静かにゆったりと、布団でごろごろするとしましょう。しちゃいましょう」
「一体全体、何が『そういうわけ』であるかは分からんが、了解した」


◆【20161006】
「んー。ぐったりごろごろ……」
「お疲れ様だ」
「せんぱーい。撫でて撫でてー。お腹をー」
「腹部を? 頭ではなく?」
「そういう気分なのですよ」
「気分であれば、致し方ない。了承した」
「んっ、……わ、ふ」
「……」
「ふふふ……んー……むふふ」
「……ふむ。ご機嫌だな」
「えへへ。ご機嫌ですよ、ごきげんごきげん。やさしくなでなでして頂いて、おなかがぽかぽかしてですねー、うん……ごきげん……」


◆【20161007】
「恋愛なんて、カップルなんて、と」
「どうした?」
「そんな風に、斜に構えていた時期もありました。あんなのはばかがすることで、つまりは私以外の誰もがばかで、世の中には軽蔑されて然るべきばかだらけ」
「……」
「でも、何でしょうね。自分で体験してみると、ばかもばかで悪くないなあ、と。……あはは。要するに、私もばかの一人だったという落ちで」
「なるほど。……君の陳述に従えば、俺もばかとやらの一派に所属していることに相成るが、まあ、それもよかろう。ばかでもいいさ、幸いならば」
「ふふふ。ばかとばかのカップルです」
「全く以て、ばかばかしい」
「でも、ばかになりませんよね」
「そうだな」
「さて先輩。ここでクイズ」
「うむ」
「ここまでの遣り取りで、先輩と私、何回『ばか』と言ったでしょう?」
「十三回だ」
「おお、そうなのですか。ごめんなさい、ちゃんと数えてませんでした」
「……クイズとは?」


◆【20161008】
「先輩せんぱいっ。ベランダに来て下さいっ。風が気持ち良いですよ!」
「ああ。今向かう」
「ほらっ」
「……これは。確かに」
「涼しくて、心地良くて、それと何故だか、どこか懐かしいような気がして」
「空は高く、陽は白く、風は遥か彼方へ渡り、意味なく涙が零れ落ちそうになる」
「儚さと、寂しさと、感傷と郷愁と、それから――」
「――愛おしさ、か」
「ええ。いとおしさ」
「……うむ。かくなる風吹く休日の朝、土曜の午前だ。出掛けるか」
「んっ」
「歩くとしよう。どこでも構わぬ、だがどこかではある場所へ」
「あはは。風の吹き行くままに、ですね」


◆【20161010】
「先輩」
「ああ」
「ねえ、先輩」
「ああ」
「終わり、という名の概念は、絶対確実確定的に、誰にも何にも、あってしまうものなのです。それから逃げ去ることは出来ないのです。……ええ、他ならない私たちさえ、いつかは終わってしまうのでしょう」
「……ああ」
「でも、先輩。先輩は、私は、先輩と私は、『彼』とその『後輩』のみちゆきは、少なくとも、今はまだ終わりではないのです」
「……」
「明日、来週、来月、来年、あはは、どこで終わるかは分かりません。……でも。でもね、先輩」
「……」
「今この瞬間、この時だけは、この刹那だけは、永遠であると信じられるから。脆く儚い須臾こそが、とわ永劫であると信じられるから。ここにある光と熱が、嘘じゃないと信じられるから」
「……」
「光り、輝き、眩しくて。きれい、きらきら、きらめいて。――先輩。ねえ、先輩」
「……ああ」
「先輩。先輩。大好きです。愛しています。……先輩。ねえ、先輩。私は、先輩のことが、誰より何より、好きで好きで仕方がなくて、どうしようもない程に好きなのですよ」
「……。俺も。……ああ。俺もだ。俺も君のことが好きだ。誰より何より恋うて止まぬ。君の為なら、何を犠牲にしたっていい。三千世界を滅ぼし尽くしてもいい。君だけでいい。君だけがいい。ただ君だけがあればいい」
「……あは。あはは」
「……ふ」
「あははっ。先輩っ。先輩せんぱいせーんぱいっ!」
「ああ。……ああ。ああ」


◆【20161012】
「さてさてここで、豆知識のコーナーですっ」
「何と」
「さあ先輩。特に明日使えるわけじゃない、でも知っているとちょこっと嬉しい、そんな小ネタを紹介しちゃって下さいな」
「……ふむ。了承した」
「おおっ」
「『スクエアな形状を持っている、徒歩の者が通る為のトンネル』。このような説明で、現物をイメージ出来るだろうか」
「ん、んー、……あ。ひょっとして、アレですか? 田舎というか、都市部から少し外れた場所にあるやつ。田圃と道路しかないような土地にあるやつ」
「ああ」
「こう、小高い道路の下をくり抜くように設置されているのですよね。どことなく、のすたるじっくな趣のある」
「そうだな、ノスタルジック。内部から見える世界は正方形に切り取られ、光も風も青空も、何がどうと言うでもないが、それでも何かが異なっているような……わけない郷愁の念を齎して止まぬものと感得される。そういうあのトンネルだ」
「ええ、ええ。ばっちりイメージ出来てます。……それで、先輩。あのトンネルが?」
「うむ。あのトンネルの名は、『ボックスカルバート』という」
「ぼっくす、かるばーと」
「……以上。特に明日使えるわけではない、だが知っていると少し嬉しい、そのような豆知識を披露した。コーナーの趣旨に合致していただろうか」
「ばっちりですっ。ありがとうございましたっ!」


◆【20161013】
「うぅ。さむい」
「……」
「さむいのですよ、先輩」
「……俺の存在がか?」
「どうしてそうなったのですか!? 先輩は寒くないですよ! むしろあったかいですよ!」
「あったかいのか」
「それはもう、ぬくぬくです。しっかりたっぷりぬくぬくです。めくるめくようなぬくぬくです。ぬくぬくですよっ」


◆【20161014】
「ときに、先輩。新たなびじねすちゃんすの提案なのですけれど」
「ふむ。現代社会に生きる輩の端くれとして、ビジネスチャンスは聞き逃せんな」
「ん、こほんっ。……ねえ、先輩。最近、気温がぐっと下がっちゃいましたけど」
「そうだな。最高気温が摂氏二十度を下回る日さえある」
「肌寒い風が吹き募る日々、深まる秋を感じずにはいられない日々。幾ら先輩が先輩だとしても、やっぱり寒いのは辛いですよね? ひやっこいのはきついですよね?」
「……まあ。否定はせんが」
「でしたら、先輩。……先輩は、先輩の後輩と、もっともっとあったかく、ぽかぽかしたりもしたいですよね?」
「それもまた、否定はせんが」
「ん。だったら。先輩」
「あ、ああ」
「――こたつ! 出しましょう!」
「――出さざるを得ん!」


◆【20161015】
「んふふ。んーふふ」
「うむ」
「あったかいって、すてきですよね。二人で一緒にあったかいって、とってもすてきなことですね」
「……うむ」
「ただお布団の中がぬくいとか、そういう次元じゃないのです。私じゃない、自分じゃない、私に由来しないあたたかさを持った命が、ここに共にあるということ。……先輩。すごいことなのです。これはすごいことなのですよ?」
「すごいこと、か」
「ええ。すごいのです。或いはもしくは、この世界にある何よりも。……先輩の熱、先輩の重み。先輩の肌触り。そうしたものが、ぜんぶぜんぶ、ここにある。これがすごいことじゃないのなら、何がすごいと言えるのでしょう。何がすごいと呼べるのでしょう?」
「……俺にとっては。まさに逆だな」
「先輩?」
「『すごい』。そうか。そうだな。確かに凄い。何より凄い。君がここにいてくれることが。君の体温がここにあるということが。君の存在、宿した命、その余すことなき全て。……君は俺の実在を以て凄いと言うが、俺は君の実在を以て凄いと言おう」
「ん。……ふふ」
「ああ」
「あったかいなあ」


◆【20161016】
「飴、食べるか。珈琲味だが」
「えと、飴ですか? 頂けるのなら、食べますけれど」
「そうか。――では」
「あの、先輩。顔っ、顔ちかい、――んっ!」
「……」
「ん、……ふっ、ぁ、――ぅん」
「……。と、いうわけで、飴だ」
「は、ぅ」
「意外と上手くゆくものだな、口移しという行いは」
「う、うぅ……あめれすけろぉ……あまいれすけろぉ」
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