彼:
齢のせいか、最近はいかにもロボットアニメ然としたロボットよりも、寧ろ生物的であったり、過度に工業的であったりするデザインのものに惹かれる。

後輩:
もし自分がトランスフォームするのなら、重機がいいと考えている。それもドリルやパイルバンカーが装備された工事用車両に。


◆【20160224】
「『ちょっと聞いただけだといかにも美味しそうに思えるのにも関わらず、よくよく考えてみると食欲をなくしてしまう食べ物』選手権ーっ」
「長いな」
「まあまあ、お聞き下さいな。……そのいち。こんがりと、焦げ茶色に揚げられた――」
「う、うむ」
「――フライドポテト」
「……揚げ時間を間違えたな。アルバイト店員がフライヤーの設定時間を間違えたな」
「そのに。口の中で、ふわっととろける――」
「あ、ああ」
「――砂肝焼き」
「……こりこり食感はどこへ行ってしまったというんだ。火を通す過程で何が起こってしまったというんだ」
「そのさん。歯ごたえばっちり、噛んでも噛んでも味が染み出す――」
「ふむ……」
「――つみれだんご」
「……鶏挽き肉に何を混ぜ込んだ。樹脂か。樹脂なのか」
「さあ、審査員は先輩です。さっそくご賞味頂きましょう!」
「なんということだ……なんということだ……」


◆【20160226】
「いやあ……良いですよねえ。バケットホイールエクスカベーター」
「ふむ。バケットホイールエクスカベーターか……」
「先輩もご存知ですか? バケットホイールエクスカベーター」
「勿論知っているとも、バケットホイールエクスカベーターのことならば。採掘用の重機だったな、バケットホイールエクスカベーターは」
「お、流石先輩。バケットホイールエクスカベーターを知っておられるとは。ちなみにバケットホイールエクスカベーターのとある一機は、世界最大の自走機械として、ギネスブックにも載っているのだとか」
「なるほど、いかにもバケットホイールエクスカベーターらしき、豪快なエピソードだな」
「ええ。いやはや何とも、バケットホイールエクスカベーターですよ。……あの、ところで。バケットホイールエクスカベーターを知っておられる先輩」
「どうした。バケットホイールエクスカベーターについて、何か聞きたいとでもいうのか」
「いえ、単純な話です。……先輩は、バケットホイールエクスカベーターについて、どう思います?」
「……そうだな。やや照れの意識は感ずるが……バケットホイールエクスカベーターなるものは、素直に格好良いと思う。バケットホイールエクスカベーターは、バケットホイールエクスカベーターとしてただ唯一の存在だ。鉄骨愛好及び重機愛好を突き抜けた、バケットホイールエクスカベーターに特有の……いわばバケットホイールエクスカベーター的な興奮とそして感動がある」
「ですよね、ですよねっ。唯一無二なのですよ、バケットホイールエクスカベーターという存在は。あのバケットホイールの圧倒的バケットホイールエクスカベーター的存在感もそうですけれど、だったら是非とも、キャタピラ部分にも注目して欲しいと思うのです。あのバケットホイールエクスカベーターの自重全てを支える基部は、バケットホイールエクスカベーターの全容からは目立たないものではありますが、結構凄まじいものだと感じるのです」
「なるほど。自走機構は、バケットホイールエクスカベーターがバケットホイールエクスカベーターであることを担保する、ある意味では非常に重要な要素と言えようだ。蔑ろにするわけにはいかないな、バケットホイールエクスカベーターについて考える際は」
「はいっ。バケットホイ……ううん」
「どうした」
「あー、あはは。その、先輩。……そろそろ大概、げしゅたるとが崩壊してきちゃっておりまして」


◆【20160229】
「ねえねえ先輩」
「ああ」
「じゅんさいって、あるじゃないですか」
「じゅんさいか。スイレン目ハゴロモモ科ジュンサイ属と分類される、ねとりとした多年生水生植物のことで相違はないか」
「あ、あはは。そこまでの詳細情報は予想外でしたし、そもそも私が目とか科とかわかりませんが、たぶんそのじゅんさいです」
「うむ。して、じゅんさいが如何にした?」
「あれって、食べますよね」
「そうだな。かの寒天質の舌触りは、吸い物などに相応しい」
「スーパーとかで、水煮の瓶詰になって売られたりもしてますけれど」
「売られているな」
「あれがですね、その、見た目が。……ごんずいの魚群、そっくりだなあって」
「……ごんずいの。魚群」
「い、いかがでしょうか」
「……。どうしてくれる」
「は、はい?」
「今後一生、俺の内在する世界観におき、じゅんさいという名の植物は、ごんずいとしか把握されなくなってしまったじゃないか……」


◆【20160301】
「憎い坊主を切り捨てるわけですよ」
「憎い坊主を切り捨てるのか……」
「そういう場合、もちろん坊主の着ている袈裟まで憎らしいわけですから、河原かどこかで燃やそうとするわけですよ」
「袈裟を河原で燃やすのか……」
「でもですね。いざ煌々と燃える焚火と夜空に上ってゆく煙を目にして、坊主を憎むところの誰かさんは、ふと気付いちゃったりしちゃうのです。そしてちいさな声で呟くのです。『ああ、けっこう上等な袈裟だなあ』と」
「袈裟が結構上等であると呟くのか……」
「まあわざわざ薪を拾い集めて天日干しして、新聞紙と上手く組み合わせたりして、時間をかけてみごと大きな焚火を作っちゃったわけですから、やっぱり袈裟は燃やすのですが」
「やっぱり袈裟は燃やすのか……」
「でも炎の中で悶え踊って炭になってゆく憎い坊主の憎い袈裟を眺めつつ、誰かさんは、ぼそりと一言こぼすのです。『質に入れておけばよかったなあ』と」
「質屋に入れておけばよかったのか……」
「……と、そういうわけで。つまりは一時の激情で行動してしまうことへの後悔と、でもその後悔もきっと復讐の一要素であったりするということの――ん、先輩。先輩?」
「憎い坊主を切り捨て袈裟を河原で焼き捨てることの懊悩の果てに燃やしはすれども一抹の悔みも捨て去れぬのか……」
「えと、……どうかなさいましたか、先輩?」
「いや。クールだな、と」
「くーる!?」


◆【20160302】
「きゃっちざはーとっ」
「た、……ターイトッ」
「あ、ところで先輩。今朝お味噌汁を作っているときに、おもしろいものを見たのですけど――」
「――待て。その前に説明してくれ。今のは一体何だったんだ。何の意味があったんだ」


◆【20160303】
「先輩先輩」
「うむ」
「がんもどき」
「……!?」
「がーんーもーどー、きっ」
「……がん、もどき」
「がんもどきーぃ」
「がん……もど、き」
「がんもどき?」
「……がんもどき」
「がんもどき……」
「がんもどき、……がんもどき」
「がんもどき……!」
「がんもどき……!」
「がんもどき……!」


◆【20160304】
「手、なんですねえ」
「……手?」
「やり手も、担い手も、使い手も、語り手も、歌い手も、どれもこれも『手』なのですねえ、と」
「なるほど。動作の主体たる人を表現する語彙は、悉く『手』で表されているのだと」
「はい。……実際の動きをみると、頭も口も、耳も足も使うのに。ちょこっと不思議な話です」
「人手が足りない、手が必要……という言語表現もあるな。人体の各部位のうち、手、ひいては指ほど自在に稼働可能な器官は他にない。であるからこそ、動作や行動、また役割を指し示すのに用いられているのだろう」
「ん。言われてみれば、実務的な場面でも、文化芸術的な場面でも、一番働いているのは指かもですね」
「うむ」
「こう、わきわきっと。くにくにっと」
「……わきわきっと。くにくにっと」
「えっちなことでも、指は大活躍なのですよ?」
「……。否定はせんが」


◆【20160305】
「んー……っ、くぁ」
「お疲れ様だ。……顧みすれば、今日はげによく歩いたな」
「あはは、げにげに」
「げにげにだ」
「えっと。今更ですけど、ごめんなさい。お腹ごなしが目的の、ちょっとしたお散歩だった筈なのですが……」
「ふと気が付けば、陽が落ちるまで歩き通しであったと」
「うぅ、面目ない」
「なに、謝ることなどなかろうさ。こうも昼日が暖かければ、長歩きも致し方ない」
「ん、ありがとうございます。私の勝手なわがままに、お付き合い頂いたことも含めて」
「いや。……しかし。春の夜なるものは、何やら奇怪ではあるな」
「きっかい、ですか?」
「こう……上手く言えんが、わけもなく、大気が甘味を湛えているような気がする」
「あー、はいはい。分かります、なんとなく分かっちゃいます。桜餅みたいな甘さですよね」
「うむ」
「たぶんきっと、あれですよ。日中とってもぬくぬくだった気温が、夜の訪れで急速に冷まされて、そこでなにかの化学反応が起こっちゃっているのですよ」
「起こっちゃっているのだな」
「ですですよ。起こっちゃっているのです。だから桜も咲くのです」
「なるほど。……春の夜の、その甘美なること。花を想起させる甘やかな闇。――桜花の季節も、もうじきか」


◆【20160306】
「――まあ、その、何と言いますか。……実際の感覚よりも、『さわられること』、それそのものが大事なのかな、と」
「……」
「つまりですね。やさしく撫でられてるなあとか、これから始まっちゃうんだなあとか、そういうきもちが高まることが――ああもう、何か仰って下さいよ、先輩!」
「……ふむ」
「うー。こういうの、答える方も恥ずかしいのですよ? それにその、……実際の経験なんて、ないですし」
「いや、待て。……前提から確認したい。君は一体、今現在、何について説いている?」
「え。でも、先輩ですよね? その、……を、さわられると、本当にきもちいいものなのか……と、お訊ねになったのは」
「……俺が?」
「は、はい」
「君に?」
「え、ええ」
「まさか」
「……へ?」
「考えてもみて欲しい。そんな筈はない。そのような類の問い掛けをした覚えはないし、そもそも俺が、然なる問い掛けをする筈もなかろう」
「う、え、……い、言われてみれば……?」
「ああ……」
「……」
「……」
「――ミステリィ!?」


◆【20160307】
「さてさて先輩。気付けばもう三月ですよ」
「うむ。大学の合格発表もそろそろだ」
「ええ。悲喜交々が色とりどりで、新生活の準備を始めるひとも多いはず……」
「そうだな」
「そこで!」
「そこで?」
「人生の先輩として、新しい暮らしに備えるひとびとに、何かあどばいすをどうぞ!」
「ふむ。では、僭越ながら。……生きていると、様々な困苦に突き当たる機会もあろう。己の力のみでは解決出来ぬ、ひとかたならない問題に出くわすこともあるだろう」
「ん……」
「或いは所謂、『知恵袋』系統のウェブサービスなどに頼りたくなってしまうかも知れん」
「あー……、あるかもですねえ」
「――だがその場合、そもそも『知恵袋を使えばどうにか出来る』という認識を捨て去ることで、問題解決の可能性は飛躍的に向上しよう。この真実は、今を生きる全ての人の指針となる筈だ」
「はいっ。先輩、ありがとうございました。とってもためになるお話でしたっ!」


◆【20160308】
「うにゃー……」
「伸びているな。見事なまでに」
「だって先輩、こーの、ぜーっつみょーなでいかんともしがたい肌寒さですよー……」
「そうだな。エアコンを点けるには心理的抵抗があり、また電気ストーブを用いるとすぐ暑くなり」
「ですですよ。先輩のお部屋にこたつがあって、本当に助かりましたー……」
「うむ。……電源を入れぬぐらいが丁度良いな。中途半端な暖かさだが、季節と季節の狭間には相応しかろう」
「ぬるま湯みたいな、このぼんやりとしたぬくもり感……もう二度と動きたくない……」
「それは困るが、……まあ、珈琲でも淹れるとしよう。待っていろ」
「ああー……だめにされてゆくー……」


◆【20160312】
「……切ったのだな。髪」
「ん。お気付きになりました、先輩? ちょこっとですけど、切っちゃいました。より正確に言うのなら、切って貰ったとなるのですけど」
「なるほど。髪を切って貰ったのか」
「は、はい」
「ついでとばかり、神は斬らなかったのか?」
「唐突な神殺し!? 『――これは、神殺しの物語――』ですか!? 『――これは、神殺しの物語――』が始まっちゃう!?」
「すまん、間違えた。……神は斬って貰わなかったのか?」
「そこなんですか!? そこ訂正するとこですか!?」
「まあ、何だ。それはともあれ」
「それはともあれで流しちゃう!? 神殺しの物語、それはともあれで流されちゃう!?」
「耳が広く見えている今の君も、俺は愛おしいと感じる。君と知り合えて良かったと、そのように強く思う」
「え、ええ……、そんな唐突に、この流れでそんなこと……」
「うむ」
「う、うれしくなっちゃうじゃないですか……」


◆【20160313】
「先輩」
「ああ」
「先輩。……ねえ、先輩」
「ああ」
「いやらしいこと、しちゃいましょうか」
「……君は俺を、折に触れてはそう誘うが。しかしだな――」
「ん。……先輩が、私を気遣って下さるのは分かります。ですから、先輩」
「……」
「先輩にご安心して頂く為に、ひとつ聞いて下さいな」
「う、うむ」
「痛いのは、最初だけとは限らないみたいです」
「……!?」
「じゃ、しちゃいましょう。大丈夫です、ご安心です」
「何処だ!? 何処に安心可能な要素があった!? あれか、ご安心ならぬご乱心ということか!?」
「うわ、なんだかほんとにご乱心ですね!?」


◆【20160314】
「生きた化石、シーラカンス。なんだかなにやら、魅力的な生き物ですね」
「うむ。シーラカンス目には三十に近い科があるが、現存するのは僅かに一科一属一種のみ。その辺りにもまた、魅力があるな」
「あー、ですねえ。昔は色々いましたもんね。王様と騎士、女王に皇帝……」
「……ふむ。社会性を持つ種もあったのか」
「他にも身体が赤かったりだとか、鱗を飛ばしたりだとか」
「こ、個性的だな」
「聞くところによりますと、うなぎに似たのもいたみたいです。かば焼きが美味しいとかで」
「それはもはや、シーラカンスと呼べるのか……?」
「ちなみにですけど、天敵は鷹ですね」
「……鷹。俄には信じられんが、鳥類の鷹で相違はないか」
「ええ、鷹です。先輩、ご存知でした? 鷹はくじらも食べるのですよ」
「く、鯨も……」
「鷹は実はすごいのです。種類によっては、ビームとかも撃っちゃったりしちゃったり」
「ビーム!?」
「ええ。ふっといやつを」
「ふっといやつ!?」
「ダライアスバースト、クロニクルセイバーズ! 好評発売中です!」
「そして唐突な宣伝行為だと!?」


◆【20160316】
「だいたい間違ってるんですよ、テレビって、それ自体がもう。もうもう!」
「まあ待て、落ち着け。理論立てて話すがいい」
「あ……はい。ええと、先輩」
「ああ」
「小説ですとか、漫画ですとか。買ってきて読むじゃないですか」
「うむ。概ねのところはな」
「逆に言えば、買わないと読めないじゃないですか。いえまあ、ネットで読んだりもしますけど、つまるところは読みたいと思えるものを、自分の意志で選ぶじゃないですか」
「……なるほど。だがテレビ番組はそうではないと。何となく電源を入れ、さして視聴したいと望むでもなく、流し込まれるように享受する性質のものであるのだと。そしてまた、享受することが国民としての常識が如く見做されているのだと」
「そういうことです。……でも、先輩。それって、おかしいと思いませんか? 人の感性、つまりひとそのものを形作るための情報が、一方的で画一的であることなんて」
「……ふむ」
「百歩譲って、ニュースとかならまだいいですよ。でもバラエティ番組みたいなものの存在が、そしてそれを観ているのが当たり前のようになっていることだけは、絶対に間違っていると思うのです。あの、……あの低俗で、下劣で、いやらしくて、品性の欠片もなくて、観ているだけで怒りと憎しみがこみあげてきて吐きそうになる……っ」
「……ああ」
「ねえ、先輩。先輩はご存知ですか。どうして世界はこんなにも、……こんなにも、どうしようもないのでしょう?」
「……それは。きっと」
「ん……」
「どうしようもないからなのだろうな。文字の通りに」
「……どうしようもないから、どうしようもない」
「であるが故に、心を強く持つことだ。観想するんだ、良質なる番組を。たとえばそう、夜明け前のストイックな自然番組が如きをな」
「は、はいっ。芸能人とかが出てこない、つまらないナレーションもない、ただただ森や動物などを無欲に映し続けるあれですね……っ!」


◆【20160317】
「時折ふと、考える。鍋料理とは何であるかと」
「ん。水炊きとか、寄せ鍋とかのことですか?」
「うむ。特に寄せ鍋……即ち出汁そのものに味付けを施して、つけだれを用いることなく食するものについてだが」
「む、ふむむ……?」
「つまりだな。……『寄せ鍋』と『煮込み料理』という二者を、明確に区別する視点はあるのだろうか、と」
「ん、と。お鍋自体を食卓に持ち出して、そこからよそって食べるか否か……?」
「それのみを以て判定せんとするならば、インスタントの袋麺を鍋から直接食べるが如き行いも、鍋料理と区分されてしまうのではなかろうか」
「あはは、なるほど。ちょこっとずぼらな、大学生の男の人がやりそうなやつ」
「……」
「……。もしかして、先輩も……?」
「……まあな」
「なんか……、えと、ごめんなさい」
「構わんさ。……して、どう思う?」
「うーん、そうですねえ。言われてみれば、はっきり区別するのは難しい気もします。食べる人の意識、その場の雰囲気……?」
「やはり、そうなるか」
「えーっと……、食べる合間に具材を追加するのは、鍋料理特有のことではありますけれど。お腹のぐあい次第では、増やさないこともありますし」
「そうだな。土鍋やカセットコンロを用いるか否か……というのも考えられはするのだが、それらは決して、鍋料理の必須とまでは言い切れまい」
「ですねえ。ふむむむ……」
「うむ」
「……ん。じゃあ先輩、こうしましょう。ここに生まれた歴史的なる大議論、その解決のための実験ということで――」
「ふむ」
「今晩は、鍋料理にしちゃいましょう!」
「満場一致だ。否定意見などある筈がない」


◆【20160318】
「ビールとは」
「ん、何やらずいぶん唐突ですが。……びーるとは?」
「主として大麦の芽、即ち麦芽を発酵させて製造する、アルコール飲料が一種だな」
「ええ、ですね。上面発酵とか下面発酵とか、なんだかあるとかなんとかで」
「うむ。短時間かつ常温で発酵させたものがエール・ビール。長時間かつ低温で発酵させたものがラガー・ビールだ。それぞれの製造過程におけるビール酵母の動きから、上面・下面と称されている」
「日本でよく飲まれているものは、らがーの方なんでしたっけ」
「そうなるな。苦味が強く、喉越す感覚を重視したものといえよう。最も、近年はエールも流行の兆しを見せ始めてはいるのだが」
「ふむふむ」
「つまりだな。……何が言いたいのかといえば」
「ん、はい、先輩?」
「麦。即ち穀物。いわば主食の原材料」
「えっと……」
「であるからして、ビールは主食と呼べるだろう」
「……はい?」
「するめいかを主菜と置いて、鮭とばを副菜とする。そして主食は当然ビール。無何有の郷へ向けるが如き憧憬を以て眺められ得る、まこと瑕疵なき素晴らしき、見果てぬ理想の食生活だ」
「ご乱心! ご乱心だこれ!」


◆【20160319】
「ん、……うにゃ」
「お目覚めか」
「あ、ふぁ、せんぱい……おはようございます……」
「おはよう。よく寝ていたな」
「はい……四百万年ぐらい眠ってた気分です」
「……四百万年?」
「まさしくなにやら、金色の眠りでしたよ」
「……金色の眠り?」
「ええ、それはもう。プラネットがすさんだり、秘密の瞳がかたちを変えちゃったりするぐらいには」
「待て。待ってくれ。君は一体、何の話をしているというんだ」
「あ……下がってください、先輩! 早く! コンボイ司令官が爆発します!」
「――ッ!?」


◆【20160320】
「安っぽい雑学ネタがやりたい……」
「安っぽい雑学ネタとは」
「あれですよ。ブックオフの百円コーナーによく置いてある、ちーぷな雑学本に載っていちゃったりする系の」
「ああ。あの低俗でかつ、その低俗さこそが魅力的な類のものか。『おもしろ雑学』だの『百の雑学』だの『合コンで使える雑学』だのと、典型的に題される」
「ですです。ワニ文庫にちくま文庫に、PHP文庫、あるいは光文社知恵の森文庫」
「うむ」
「そういうわけで、不肖、後輩。紹介させて頂きます。『いちばん画数の多い漢字』!」
「拝聴しよう」
「こほん。……その漢字の画数は、なんとびっくり八十四。そして中国由来ではなくて、日本で新しく作られたものなのです」
「いわゆるところの、国字だな。……して、肝心の漢字自体は、どのようなものなのだろう」
「はいっ。『雲』『雲』『雲』『龍』『龍』『龍』。これら六つをぎゅぎゅっと詰めて一文字にして、その読み方は『たいと』ですっ。ご照覧あれ、この量産機ロボット合体みたいな外連味を!」
「なんと、もはや。なるほどこれは、凄まじい」
「……なあーんて、言っちゃってますけれど。実際のところ、こんな漢字が使われていたという文献は実在してないようでして、どうも信憑性に乏しくて、疑わしくはあるようでして」
「ふうむ。難しいものだな」
「あはは、全くですね。……ちなみにですが、先輩」
「ああ」
「雲とか龍とか付いてますけど、大戦末期の某航空母艦とは、一切関係ないのです。あしからず、なのですよ?」
「ふむ。かの改マル五とは無関係であるのだな」


◆【20160322】
「『なおざり』と『おざなり』の使い分けとか、だいぶ有名になっていますよね」
「うむ。『役不足』や『性癖』の誤用などについても、紹介される機会は多いようだな」
「さてさて、そういうわけで!」
「そういうわけで?」
「不肖、後輩。未だに間違って使われることが多くて、しかも誤用が訂正される機会も少ないという、レアな言葉を見付けてきちゃったのですよ」
「なんと」
「ずばり、『しかつめらしい』です!」
「ああ……」
「おお。先輩はご存知でした?」
「真面目腐った様子である、という意味であったか。字面が由来で、しばしば『顰め面』と混同されていると聞き及ぶ」
「ですですよ。中には『しかめつらしい』という風に、そもそも間違って書かれることもあるとかで」
「漢字に変換しておけば、そうした誤用は減るかも知れん。当て字ではあるがな」
「あー。動物の『鹿』に指の『爪』、でしたっけ」
「うむ。流石だ」
「えへへ、どもども。……それにしても、先輩」
「どうした」
「この当て字の雰囲気って、なんだかちょこっと、『とにかく』を思い出します。うさぎにつの」
「……なるほど。言われてみれば、どちらも動物と器官を合わせたものか」
「いやはや、気になっちゃうことですよ。ラビットホーン・バーサス・ディアクロー」
「幻獣界隈に激震が走るな。世紀の一大決戦だ」
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