彼:
身長は百七十九センチメートル附近。平均よりは高めである。
ジョギングや筋力トレーニングを習慣付けているため、それなりには筋肉質。

後輩:
身長は百四十八センチメートル附近。平均よりは低めである。
ジャンクフードや菓子の類を好むが、栄養管理の徹底により健康を維持している。

◆【20150101】
「世に曰く、『猫派か犬派か』だそうです」
「まあ、定番の問いではあるか。強いてどちらと、定めるものでもなかろうが……」
「それでも、たとえばもしも先輩が、敢えてどちらと聞かれたのなら?」
「そうだな。……犬、だろうか」
「ふむふむ。先輩は犬派、と」
「中型、ないしは小型犬が良かろう。そして聡く、賢くあれば……」
「知性というのも、犬の一つのイメージですね。犬と人とは対等である、とも言いますし」
「ふむ。いっそ、俺より賢いぐらいが望ましいのだが」
「そ、そこまで行きますか」
「むしろ、飼い犬に手を噛まれたい」
「……!?」


◆【20150101-2】
「ちなみにですけど、私も犬派だったりします」
「詳しく聞きたいところだな」
「そうですねえ。……のんびりとした性格の、大型犬。ゆっくり散歩したりですとか、素敵だと思うのです」
「なるほど」
「あと、日向で一緒にお昼寝したりですとか」
「つまり、もふもふするわけか」
「それはもう、もふもふするわけですよ。そしてきっと、ぬくぬくしているわけですよ」
「これもまた、犬ならではの要素だな」
「ええ。そんなこんなで、犬なのです」
「うむ。犬だな」
「犬はいい……」
「ああ。犬はいい」


◆【20150102】
「君は、何をもって自身の存在を正当なものとする?」
「それはもちろん。先輩の、後輩であることをもってです」
「……ミステリネタを振ってみたと思ったら、淀みなく剛速球が返ってくるとはな」
「ふっふっふ、舐めて貰っちゃ困るのですよ。……まあ、ブラックウィドワーは男性限定ですけどね」


◆【20150102-2】
「エア・サプライとエア・リプライって、似てません?」
「似ている、というか。まあ、一字違いではあると思うが」
「『さよならロンリー・エアリプライ』。『渚のエアリプ』。……何ともまあ、ロマンチックなことですね。冗談ですが」
「……そもそもだな、まず、前提として」
「ん、先輩?」
「その、『エア・リプライ』って、一体何だ」
「……え」
「強いて日本語に直すなら、空返事とでもなるのだろうか……」
「あ、あー。えっと、つまりですね、ツイッターで、直接ではなく……ああ、もう。何か恥ずかしいので、先輩の方でお調べ下さい」
「う、うむ」


◆【20150102-3】
「ことわざに曰く、『真夜中は何食ってもうまい』、だそうです」
「いやまあ、諺ではないけどな。バイオレントなジョークだけどな」
「何にせよですよ、先輩。ここはひとつあやかって、軽食の時間にしませんか? 五分も歩けば、魅惑の青い牛乳瓶の看板が……」
「だめだ」
「無慈悲!」


◆【20150103】
「ベランダで、取り込み忘れの洗濯物が凍て付いていた。それはあたかも、干物の如く」
「あはは……。ここ数日、ほんとに寒いですからねえ」
「全くだ。身も心もとは言うが、よもや衣服でさえも凍るとは」
「凍った衣類と言えば、一つ、思い出すことがあるのです」
「ほう?」
「小学生の頃だったと思いますけど、魚市場の冷凍室に、見学に行ったことがありまして」
「うむ」
「濡らしたタオルを持ち込んで、ひとたび振り回しますと、たちまちタオルが氷漬け! ……みたいなですね」
「……ああ。おぼろげながら、俺にも似たような経験がある」
「お。じゃあ、先輩も魚市場に?」
「うむ。迫る追っ手を次々に、冷凍まぐろで殴り倒して……」
「……!?」
「――すまん。記憶に混線があった」
「どこの、どなたと!?」


◆【20150104】
「ね、うし、とら、じょん、うー、たつ、み……」
「……一応言っておくのだが、干支には乱舞する鳩も、まして地面を転がりながら二丁拳銃を撃ちまくるロングコートの男も、決して含まれてなどないぞ」


◆【20150104-2】
「誰かを袖にするぐらいなら、もとよりノースリーブを着ていればいいのです」
「頷ける提案ではあるのだが、大きな問題が一つある」
「む。それは?」
「袖無しの服を着ているならば、冬の寒さは、それは耐え難いものだろう」
「ふうむ。……つまり、誰かを傷付けないでいることと、人肌を感じるぬくもりは、両立しがたいものであるのだと……」
「比喩でいうなら、『袖振り合うも他生の縁』、という言葉もあるな」
「むう。袖なくしては、遠いよすがさえ無に帰してしまうというのですか……」
「であれば。間を取って、七分丈というのはどうだろう」
「多少の寒さは我慢して、程々にお付き合い。それもそれで、難しそうなお話ですけど――」
「――というか。何だ、この与太は」
「あはは、何をいまさら。いつものことじゃないですか」


◆【20150105】
「スーパーマーケットへと立ち寄って、今日の食事と、或いは酒を物色して回る。そんな毎日の繰り返しの中にさえ、見慣れぬ事象は立ち現れる」
「ふむふむ。当たり前の暮らしのうちに、新たな発見があるというわけですね。いいことです」
「良い事であるか、そうでないかは、発見の質にも因るだろう」
「うーむ、かもですけれど。何か、具体例が欲しいところです」
「つまり。……ウイスキーと練り辛子が、抱き合わせに売られていたのを見た時は、頭を抱えざるを得なかった」
「……えっと」
「うむ」
「ウイスキーと、練り辛子?」
「……うむ」
「ウイスキーと、練り辛子……」
「恐らくは、鍋料理に具してハイボールを飲め、という目論みなのだとは思うのだがな。であるとすれば、何とも迂遠な売り込みではあるのだが」
「な、なるほど。言われてみれば、なくはない、……のでしょうか?」
「何にせよ、あの日一日、どうにも思考が回らなかったのを思い出す。布団に潜り込んでさえ、ウイスキーと練り辛子のことを、ぼんやりと考え続けていた」
「あはは。妙なマーケティングが気になることは、確かにあることかもですね」
「まあ、美味かったけどな」
「……乗っかっちゃった!?」


◆【20141106】
「……」
「……」
「電気が点いていないからと、合鍵で先輩の部屋に入った私を待っていたものは、先輩が真っ暗な部屋の中で、何か戦闘的な格闘ポーズを取っている場面だったりしたわけですが、私は一体、どうするのが正解だったのかと、混乱しつつも必死に考えていたりするのです」
「……そうだな。では、こんな話はどうだろう。――人間の脳には、ある意味においては幸いであるとも言える仕様、或いは機能が備わっている」
「……」
「それは、忘却という名で呼ばれているものだ」
「……えっと」
「つまり。……忘れろ」
「無茶をおっしゃる……!」


◆【20150107】
「こういうのは、身勝手なのかも知れませんけど。ロックンローラーが太ってゆく姿というのは、やっぱり見ていて辛いものだと思うのです」
「うむ。同感だ」
「具体的には、かつてロックンロールの王として、音楽の力で人種の壁を取り払った――」
「いや、待て、あれは仮の姿に過ぎんのだ。本当の彼はモンゴル帝国を築いたあと、遠い銀河の母星に帰ってロックンロールを……」
「妄想が悪化してますよー、先輩」


◆【20150108】
「たまには真人間のふりでもと、覚悟を決めて、バラエティ番組を観ようとしたのですけれど」
「またぞろ、無用な苦労を背負い込んでいるようだ」
「全くですよ。開始五分で、むずむずして、もぞもぞして、すぐにテレビを切っちゃいました。いわゆる世間の人々は、どれだけ強い精神力を持っているのかと……」
「……ふ」
「……先輩、今、笑いましたよね!?」


◆【20150109】
「睡眠時間が足りていない。疲労している。布団のことしか考えられない」
「ん……」
「そして、どうにか家に帰り付く。食事を摂って、風呂に入って、さて、それでは寝るかといえば――」
「――お酒を飲みながら読書して、気が付けば、空が明るくなりかけている?」
「……まあ、そんなところだ。悪循環というか、自業自得めいてはいるが」
「でも、先輩。それも、致し方ないというものですよ」
「そうか?」
「だって、夜ですから」
「……」
「静かで、穏やかで、あるいは愛おしくさえあって、その時間は、きっと祝福されていて。邪魔されることのない夜を、ずっと終わらせたくないと思うのは、仕方ないことだと思うのです」
「……ああ。なるほど、仕方ない」
「ですから、夜は。……長いですよ、先輩?」
「うむ。望むところだ」


◆【20150110】
「先輩先輩っ」
「勢い込んで、どうかしたのか?」
「お布団、あっためておきましたー」
「……む」
「ふっふっふ。これですよ」
「これ、とは」
「つまりですよ。――今、先輩は、怪訝そうな表情をなさいましたけど。その理由は、恐らく『布団をあっためたと言っているのに、こいつは今、布団に入っていないじゃないか』という疑念です。先の例に照らし合わせて、先輩は困惑しているわけですよ」
「なるほど、的確な推理と言えようが。……しかし、根源的な解答にはなっていないな」
「むふふ」
「その笑みは、もしや」
「隠された真実を、詳らかにするときが来たようですね」
「……では、つまり?」
「つまり。自宅の物置から発掘したばかりの、電気あんかを仕込んでおいたのですよ!」
「な、なんと……!」
「さあ、先輩。科学の力であたたまったお布団で、思う存分、ぬくぬくするが良いのです……!」


◆【20150111】
「ふと、思い出したのだがな」
「ん、先輩?」
「そう遠くない昔、空腹を紛らわす為、市販の出汁を薄めて飲んでいた日があった。丁度、こんな凍夜のことだ」
「わ、わあ。聞かない話じゃないですけれど、いざ先輩の言葉で伺うと、何だか妙に生々しい」
「まあ、何が言いたいのかといえば……」
「おお、何が言いたいのかといえば?」
「おでんは、いい。素晴らしい」
「あはは。それはもう、世界の真理に近いことですよ。……あつあつの大根を噛み締めて、涙目になるのもお約束です」
「うむ。……噛めど噛めど、千切れはしない蛸の足」
「黄身が崩れてだし汁にとけてしまった、卵の悲哀」
「あたかも舌を焼くかの如き、餅巾着の熱烈な奇襲」
「うっとり……」
「ああ。恍惚とせざるを得ない」
「と、いうわけで。……こうして、明日のばんごはんが決定したわけなのでした」
「全会一致だ。反論の余地もない」


◆【20150112】
「むーぐぐぐ」
「……ぬう」
「ふぬぬ……、おお。よしっ」
「……しまった。破れた」
「あ、あはは。先輩、代わりましょうか?」
「すまん。頼む」
「それでは、拝借。――爪を立てて、と」
「いつも思うが、一種、試練めいてはいないだろうか。『輸入盤洋楽CDのケースに貼られた、妙に堅くて剥がし辛いシール』」
「いえもう、まったく。よしんば剥がせたとして、べたつきは残っちゃいますしねえ」
「もはや、代行業者が成立するレベルではないのか、これは」
「あはは。将来の進路設計として、候補に入れておきましょう」


◆【20150113】
「塩素のにおい。プールサイドの水しぶきに、日の輝きが煌いて」
「ふむ」
「夏祭り。屋台で買った焼きそばは、値段以上に美味しくて」
「不思議なものだ。碌な具さえも、入ってはいないのに」
「そしてあるいは、夜闇に咲いた大輪の花。浴衣姿の幼馴染は、なんだかいつもと違うような気がして――」
「――空を見上げる横顔に、上気したその頬に、色とりどりの光が映る、か」
「……つまりですよ、先輩」
「うむ」
「夏、それは青春の季節!」
「ああ、違いない……」
「夏なのか、春なのか、どっちなんだって感じですよね」
「……野暮!」


◆【20150114】
「人間でさえ死にかねないような、多量のアルコールやニコチンを投与した、カエルかなにかの映像を見せつけて。それで、健康がどうのこうのと……頭でっかち、以前の問題だと思います」
「ふむ……」
「そして、ただそれだけの知識のもとに、感想文だの、啓蒙ポスターだのを提出させて、点数付けて、褒めそやして、祭り上げて。一体、何か、意味があるとでも言うのでしょうか?」
「……」
「そこで、知性は死んでいるのです。知り、考え、自分の言葉を紡ぐ機会は失われ、虚ろな賞讃だけが残されているのです」
「……何やらのフォローを受けているようで、少し居心地は悪いのだがな」
「でもですよ。たとえ非難するにしたって、ちゃんと自分の頭で考えてほしいというのは、先輩も頷ける話なのでは?」
「それは、そうだが。しかしだな、嗜好品に関する……言わば、知性的でない教育も、取っ掛かりとしては、一応の意義はあるんじゃないか?」
「……むう」
「始まりはそれでいい。後のことは、時と経験を重ねるのに従って、自然と知ってゆくのだろうさ」
「……あの、先輩。何だか、子供扱いされているような気がするのですけど……」
「……そういうことに、なるのだろうな」
「うむむむ……」


◆【20151115】
「うーむ、冬季こたつ性突発転寝症候群……」
「……いかにもな病名を付したところで、君が炬燵に入ったまま眠りに落ちて、その結果、風邪を引きかけているという現状を、覆せるものでなどありはすまい」
「う、うむむ。寝惚けてスイッチを切ったりしなければ、こんなことには……」
「観念して、養生しているがいい。……粥程度なら、食べられるか?」
「あ、いえ、そんなに重くはないのです。油ものでもないのなら、普通に食べられるかと」
「そうか」
「……でも、この際。先輩のおかゆは食べたかったり」
「ふむ、よかろう。希望はあるか」
「ん。たまごがゆ」
「鶏胸肉も入れるか?」
「おねがいします」
「分かった。まあ、寝て待つが良いさ」
「……あの、先輩」
「どうした」
「その。ありがとう、ございます」


◆【20150116】
「んー、んん」
「……」
「ちぇっく、ちぇっく、てすと、わん、つー」
「……」
「――ふう」
「どうだ。機材ならぬ、喉の調子は?」
「ん。ばっちりですよ」
「それは良かった」
「これもきっと、たまごがゆのお陰だと思うのです」
「事実はともあれ、嬉しい言葉ではあるな」
「あれがまた食べられるのだとしたら、本格的に風邪を引くのも悪くないかも……」
「こら」
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