彼:
概ね心穏やかに過ごしているが、沈むときはとことん沈む。
主なストレス解消法は、軽いジョギング。

後輩:
心の調子にムラがあり、テンションの振幅が広い。
主なストレス解消法は、値引き前の惣菜を買い込むこと。


◆【20140909】
「こうして、近く明るい望月を見る度に思うのだが」
「何をですか?」
「実際、岩石なのだよな、と」
「あはは、確かに。これだけくっきりはっきり見えますと……」
「模様というより、最早クレーターとしか思えない」
「ですね。ものすごいごつごつ感」
「風情があるのか無いのか、今一つ分からんな」
「でもとりあえず、一つだけ言えるのは……」
「うむ」
「半額のお月見団子、美味しいです」
「違いない」


◆【20140910】
「アシモフ、クラーク、ハインライン。未来世界の空想であった筈のSFが、今やレトロ憧憬の対象になってるだなんて、少しおかしな話ですけど……」
「そうだな。……歴史のある地点で価値を持った事物は、時間の進行と共に意味を減ずる。しかしまた、それとは逆に――」
「えっと。――いつか全く別の価値のもと、新たな意味が生まれゆく?」
「うむ」
「それも、微妙な話ではあると思うのです。突き詰めれば、『源氏物語はラノベ』みたいな、おかしな言説が罷り通っちゃいますし」
「極端な事例ではあるが、一理ある。……だがまあ、雅な平安の貴族社会であれ、古びた無垢な空想未来であれ」
「そこにある世界が、魅力的であることには変わりない、と」
「ああ。そのぐらい無邪気に読んだとしても、罰は当たらないような気はするな」
「ふむふむ……」


◆【20140911】
「そんな『赤盤と青盤と白盤、全部持ってます』みたいなことを言われたビートルズファンみたいにやりきれない表情をして、どうしたんですか先輩?」
「……。よく思い付くものだな、そういう表現」
「ああでもないこうでもないと、ノートを埋めることしきり」
「なんて無意義な……」


◆【20140911-2】
「お勧めだと連れていかれた飲み屋が、全国チェーン店だった時の遣る瀬なさ」
「あー……」
「しかもそこが、割とまあまあ美味かったりしてな」
「そしてそう感じてしまう自分の舌が……」
「尚のこと、遣る瀬ない」
「更に、チェーン店を蔑んでしまう自分の心が……」
「うむ、遣る瀬ない。……というか、今日は切れ味鋭いな」
「あはは。ごめんなさい」


◆【20140912】
「ドイツ語にすると、大体のものは格好良くなるという真理」
「具体例が欲しいところだ」
「たとえばですね、そう。えーけーびー・ふぉーてぃえいと」
「仔細は知らぬが、アイドルグループの名か」
「アーカーベー・アハトウントフィアツィヒ」
「……特殊部隊!」


◆【20140912-2】
「ねーねー先輩」
「うむ」
「いかがわしいことをしていると思ったら、実は耳かきだった……みたいなネタ、やってみたくありません?」
「耳かき自体、それなりにいかがわしい行為だとは思うがな」
「な、なんか、予想外の方向から来ましたね……」
「さて、やるか。耳かき」
「この流れで!?」


◆【20140913】
「大学生の集団は、何故あんなにも喧しいのか」
「おお、珍しく愚痴ですか?」
「あいつらを焼き払う兵器が欲しい……」
「そしていつになく過激!?」
「あー……。すまん、少し酔ってるな」
「ありゃ、飲んで来られたのですか」
「悪い」
「いえいえ。付き合いますよ、お酒ではないですが」


◆【20140913-2】
「確かに、酒を飲めば見えて来る世界もある。飲むことでしか、知れない世界というのもありはする」
「じゃあやっぱり、お酒を飲まない人は、人生損をしていると?」
「いや。飲まないなら飲まないで、飲まないことでしか見えぬ世界というのもある筈なのさ。何もかも、絶対的な話ではない……」
「なるほど」
「そもそも。酒など、所詮は嗜好品の一つに過ぎない。人生の機微を語るには役不足さ」
「役不足……」
「うむ」
「……罠ですね?」
「いい判断だ」


◆【20140914】
「あ、猫」
「うむ、猫だな」
「お昼寝でしょうか。道の真ん中ですけども」
「というにも、凄い姿勢だが。生きているのか、あれは?」
「た、確かに。少し、近付いてみましょうか――おお」
「素早いな」
「で、ちょっと離れて……」
「またすぐ、凄い姿勢で寝転がる、と」
「何と言いますか……とても猫」
「猫だな。とても」


◆【20140915】
「先輩せんぱいっ、大発見」
「勢い込んで、どうした」
「わさび味の柿の種を、噛まずに暫く舐めてるとですね」
「うむ」
「わさび感が、凄い」
「……」
「……」
「……本当だ!」


◆【20140915-2】
「そうか分かった。執事が犯人だ」
「推理をぶん投げなさる!?」
「名前はセバスチャンだな」
「しかも超適当な捏造!」
「事件解決というわけだ」
「……もしかして、先輩。眠い?」
「……かも知れん」


◆【20140916】
「高校生らしくしろ、高校生らしくしろ、って。一体、高校生らしさって何なんでしょう?」
「ファストフード店で勉強会でもしていれば、それで良いのではなかろうか」
「あー、うん。なんか、そんな気がして来ました……」


◆【20140917】
「あれ、先輩。知らなかったんですか?」
「ふむ。何をだ?」
「それは私も知りません」


◆【20140918】
「寝すぎたら、眠い」
「ああ。理屈は知らぬが、覚えがあるな」
「もちろんですが、寝無さすぎても、眠い」
「生物として、当然のことだと言える」
「そして、適度な睡眠をとったとしても……これも結局、眠いんですよね」
「……うむ」


◆【20140919】
「ブラックコーヒーが好きと言っただけで、格好付けだなんだと陰で言われる世の中なんて、滅んじゃえばいいんですよ」
「……それは。酷いな」
「……はぁぁ。私も、油断していたといえば、そうなのかもしれませんけどね……」
「個人の趣味嗜好を、世界の真理だと思いなす人間は多い。それも、信じられない程多い」
「大人になっても、そうなんですか?」
「ああ。全く変わらないな」
「なんというか、もう、げんなりとしか」
「気にするなと、言う他にない。……そうだな、まあ、気分転換というでもないが」
「……?」
「出掛ける準備をしてくれ。隣町の焙煎屋まで、付き合って貰おう」
「あ……はいっ」
「嗜好は、何処までいっても嗜好に過ぎない。気にせず、美味いコーヒーを飲めば良いさ」
「ん。ありがとうございます、先輩」


◆【20140920】
「バーバパパ、バーバママ、バーバ間男」
「……最後のは何だ!?」


◆【20140920-2】
「大衆食堂の異様に安くて不味いラーメン、あるじゃないか」
「あー、はいはい。百五十円とかの」
「美味いよな。あれ」
「……なんてストレートな矛盾!?」


◆【20140921】
「些細な疑問なのですけど」
「うむ」
「一度棚に上げた自分のことは、いつか棚から下ろすのでしょうか?」
「曰く、『棚からぼた餅』だそうだが」
「なんという錬金術……」


◆【20140922】
「お煙草はお吸いになられますか?」
「いや。禁煙席で頼む」
「では、お吸い物はお吸いになられますか?」
「火傷しそうなのでパスだ」
「じゃあ、うまい汁だけ吸って生きるつもりですか!?」
「そうしたいのはやまやまなのだが」
「それはもう、全くですよ」
「素に戻ったな……」


◆【20140923】
「別に、話を聞くのが上手いわけでもない。ましてや、人生アドバイザーとしての経験を積んできたわけでもない」
「ふむむ」
「だが、寄りかかる柱ぐらいにはなれようさ。……そのぐらいは、させてくれ」
「背、高いですもんね。先輩」
「俺のせいじゃないけどな」
「わお、ハードボイルド。……でも、先輩。そんなに気負われなくても」
「ああ」
「私は、ずっと。ずっとずっと、先輩のお世話になってきました。もたれかかって、くっついて、抱き付いて」
「……ふむ」
「これはもはや、抱き枕状態ですよ」
「喜んで良いのかどうか、微妙なラインではあるな」
「もちろんカバーの材質は、安心と信頼のツーウェイトリコット」
「何の話だ……」
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