彼:
フルネーム、岸辺明人(きしべあきひと)。
だが作中には一切登場しない。

後輩:
フルネーム、瀬戸内みなも(せとうちみなも)。
だが作中には一切登場しない。


◆【20140825】
「いやー、雨の日の鍋料理はいいものですなあ……」
「うむ。夏の寒い日に食べる暖かいものは、また格別の風情がある」
「ですです。流石先輩、風流を解していらっしゃる」
「そして、ビールのこの美味さ……」
「それは知りません」


◆【20140825-2】
「この前、ちょっと気が滅入った時に、音楽プレイヤーのランダム再生をかけてみたら……」
「うむ」
「なんと一曲目が『パーティ・ハード』」
「そいつは景気が良いな。シャッフルはよく空気を読むが……」
「全くです。思わず、一晩中パーティするところでした」
「We do what we like and we like what we do、ってな」


◆【20140827】
『夜分に申し訳ないのですが……』
「電話は珍しいな。どうした?」
『私。画像と音のごり押しは、ホラー失格だと思うのです』
「ふむ」
『認めないのですよ』
「……怖かったんだな」
『……うん……』


◆【20140829】
「隣の家に、囲いが出来たんですって」
「こうして地域の繋がりは失われてゆくのだな……」
「悲しいことです」


◆【20140829-2】
「隣の家に、蚕蛾出来たんですって」
「仰山、生糸が出来るのだろうか」
「……あ、養蚕だけに?」
「なんか……すまん」


◆【29140829-3】
「隣の家に出来た囲いは、よく客食う柿を閉じ込めてるんですって」
「何というか、キメラだな」
「いろんな意味で……」


◆【20140830】
「ライブハウス、ビール片手に、見知らぬ学生バンドをぼんやり眺める夏の暮れ……」
「そこはかとなく退廃的」
「楽しいぞ」
「えー……」


◆【20140830-2】
「抹茶塩と柚子胡椒……」
「ふむ。どことなく、並列に立つような気がするな」
「戦ったら、どっちか勝つでしょうか?」
「抹茶塩の方が安定性は高そうだが、素早さでは柚子胡椒」
「一撃の爆発力も、柚子胡椒のほうが高そうですよね」
「そうだな。まあどの道、七味唐辛子には勝てないが」
「あー。それは勝てない……」
「……って、何だ。この話は」
「謎トークは、人生の調味料?」
「絶妙に上手くないな……」


◆【20140831】
「いい風だな」
「ですねー……」
「そして、綺麗な夕陽だ」
「ああ……私の夏休みが沈みゆく……」
「はは、ま、学生にとっては重大事だな。だが、仕方のないことだ」
「……むむう」
「『夏と秋とゆきかふ空のかよひぢはかたへ涼しき風や吹くらむ』。季節は変わりゆくものである故に」
「……その変化を受け入れ、楽しんでゆくのがいい?」
「うむ」
「あはは、先輩らしいです。……涼しき、風」
「ああ。秋が来るのさ」


◆【20140901】
「兄さん」
「む」
「お兄ちゃん」
「ふむ」
「兄ぃに」
「うむむ」
「……というわけで。先輩は、妹にどう呼ばれたい系の人種なのです?」
「斜め上にも程があるな」
「ごまかしは許しませんよ」
「……そうだな。実際、俺が何か答えたとする。それで君は、その呼び方で俺を呼んでくれるのか?」
「むむ」
「ずっと。人前ででも」
「や、やりますよ?」
「悲しい事だ。俺は君の『先輩』でいたかったのに」
「……卑怯な!」
「ちなみに『兄さん』派だ」
「このタイミングで!?」


◆【20140902】
「やっぱり先輩も、いつかは『この世界は小説だからな』とか、作者がどうこうとか、そういうおませな事を言ったりしちゃうんですか?」
「ふむ。まずは、それらの要素が『メタネタ』として括られているという、その確認から始めよう」
「え、えーと」
「しかしそもそも、メタフィクションという事を考えるにおいて、単純に作者、創作物という単語を出すのみをして、その概念に当て嵌めていいものなのだろうかと……」
「……ごめんなさい。私が浅はかでした」


◆【20140902-2】
「サザエさん時空……」
「何だ、唐突に」
「いえ。ピーナッツ時空でもコボちゃん時空でも構わないのですが、あれについて、ちょっと思いついたことがありまして」
「ふむ。聞こう」
「実は、ちゃんと時間は流れてて、ちゃんと齢を取ってるんじゃないですか。でも同じ時代を繰り返したいという願いにそって、現実を見ずに、そういう演技をしてるとか――」
「――やめろ。この話題は危険だ」
「わ、私もそんな気がしてきました……」


◆【20140903】
「数学って、なんかすごいですよね……」
「また唐突だが。何処がだ?」
「徹頭徹尾、全く何もないところからでっちあげられて、今なお色々でっちあげられ続けているところが」
「ふむ」
「しかもそのでっちあげられたものが、世界中で真理みたいに扱われてて……」
「相変わらず、いい着眼だ。今でこそ、『一足す一は二』は当たり前だが」
「それは、最初に誰かが全く勝手に唐突に、そう言い出したものなんですよね」
「うむ。……だがそれは、あらゆる事物についても言える」
「つまり?」
「猫が歩いている。それは『猫』と名付けられるまで、猫だと認められなかった」
「ふむふむ」
「もっと遡ろう。誰かがそれを一つの事象だと認識するまで、それは単個に存在していなかった。認識によって切り離されるまで、それは森羅万象そのもののだった。いや、或いは」
「あー、あー。……ものの『存在』なんていう概念も、誰かがでっちあげたものだと……」
「その通り。まあ流石に今の俺達の認識が、存在の概念を覆せるとは思えんが……」
「遠い遠い昔には、そういう世界で生きる人たちがいたのですね。世界には何もなかった……いや、違いますか。『無い』なんていう事象さえ」
「うむ。それが『人』だったかは、定かではないけどな」
「なんというか……すごい。世界すごい」


◆【20140904】
「先輩、おかえりなさい」
「うむ。ただいま」
「たわしですか? たわしにします? ……それとも、た・わ・し?」
「たわしを選ばざるを得ない」
「ちなみに風呂掃除は終わらせてあるので、たわしの出番はありません」
「なんということだ」


◆【20140905】
「ノヴァスコシアダックトーリングレトリーバー!」
「……」
「ジャーマンワイアーヘアードポインター!」
「……」
「アイリッシュソフトコーテッドウィートンテリア!」
「必殺技か何かか、それは?」
「いぬの種類です」


◆【20140905-2】
「ポメラニアン……」
「ああ、それなら知っているな。犬の種類……」
「いえ。ポメラユーザのことですね」
「……キングジム!」


◆【20140906】
「図らず、昼寝していたらしくてな」
「ふむふむ」
「肌寒さに目が覚めた。部屋は驚く程に暗く、空は宵闇を過ぎていた。……異世界へでも、迷い込んだのかと思ったものだ」
「あー、ありますねえ。それでそういう時に、妙に出歩きたくなったりして……」
「うむ。ある種の非日常だな」
「大気が思いのほか冷たくて、ぼんやりとした頭に心地良く」
「そして飲み屋の赤提灯が、やけに魅惑的に映り」
「それは、先輩が飲み助なだけだと思います」


◆【20140907】
「今日は一日、調子に乗る日なのです」
「乗ってしまうのか」
「こう、おねだりとかもしちゃいます」
「ならば一体、何をねだる?」
「それは先輩が考えるのです」
「波乗りレベルで乗っているな……」


◆【20140907-2】
「私が寝るまでが休日です」
「そうかもな」
「つまり私が眠らなければ、休日はずっと続くのですよ!」
「電気消すぞ」


◆【20140908】
「渡したいもの。欲しいもの。……色々と、まだあるのですけどね」
「ああ。……だが、俺は」
「はい」
「気を急いて、何かを新しく手に入れようとは思わない。今あるものをなくさないことで必死さ」
「あはは、ですね。……世界の速度は、私たちにとって速すぎるから」
「緩慢に歩むのがいい、か」
「そうですね。ゆっくり歩きましょう、これまで通り」
「ああ。心労も、迷惑も、掛ける事になるだろうが……」
「お互い様というやつですよ」
inserted by FC2 system