彼:
ワンルームアパートに一人暮らし。
後輩とは事実上の半同棲生活で、家事の多くを手伝って貰っている。

後輩:
肉親との関係はほぼ断絶しており、その実情は一人暮らし。
彼の家によく転がり込み、寝食をともにしている。


◆【20140725】
「死人占い師!」
「ネクロマンサー、か」
「私、あの訳大好きなんですよ。つらぬき丸とか、裂け谷とか」
「好みは分かれるみたいだが。音声筆写の英単語が、ハイファンタジーに出てくるのが苦手……というのは、わからんでもない」
「まさにそうなのです。なんか、現実に戻される気がして」
「なるほどな。……では、馳夫は?」
「他にしっくりくる訳を、色々考えてみるのですけどね。大股、流れ者、うろつき……でも、やっぱり最後は」
「戻ってくるわけだな」
「戻ってくるわけなのです。けだし名訳、という奴ですよ」


◆【20140729】
「世界には、不思議な生態をもつ生物もいますが……」
「うむ」
「彼等が本当にこわいのは、比喩でもなんでもなく『ウェーイ』って発声する事だと思います」
「うむ……恐るべき、奇妙な生態といえる」
「脳改造でもされてしまったのでしょうか……」
「サークルという名の洗脳集団」
「身の毛もよだつ研修……破壊された自我」
「叫び声だけで成立するコミュニケーション」
「こわいところですね、大学って」
「こわいところだぞ、大学は」


◆【20140731】
「この前、な」
「ん。先輩?」
「バスの窓から、海沿いの道を眺めていたのだが」
「はい」
「海風に夏服を煽らせながら自転車で走り抜ける、高校生が見えた」
「うん……それで、どうしたのですか?」
「……」
「遠い眼……!?」


◆【20140801】
「チョコチップのアイスクリームも、一枚岩とはいかないものです」
「バリエーションの話か」
「はい。……たとえばですね、先輩は『バニラアイスにチョコチップ』と『チョコアイスにチョコチップ』、どちらがお好きですか?」
「どちらも嫌いではないが……強いて言うなら、バニラの方だろうか」
「お。つまり、水着の日焼け跡にどきどきするタイプ」
「……何故そうなった!?」


◆【20140803】
「驚いているみたいなタイトルのホラー映画、ありましたよね」
「ふむ?」
「テキサスチェーンソーまさか!」
「まさか!?」


◆【20140804】
「がんばりたくない時も、あるのです」
「ふむ」
「そんな時に、『がんばれ』というのは……残酷、というものではないでしょうか?」
「それも確かに、あるだろう。だがその一言がないと、立ち上がれない時もある。残酷であったとしても、必要な時もある」
「そういうもの、でしょうか……」
「……加えて言うなら。夏休みの宿題は、頑張れ」
「はーい……」


◆【20140807】
「あーすろっく?」
「二輪車の停め方だな。ワイヤ錠で、地面に固定された建造物に括りつける」
「あ、なるほど……。私はてっきり、ああいう奴かと」
「ああいう奴?」
「『堅固なる大地の力よ、かの者を縛る牢となれ。アースロック!』みたいな」
「地属性魔法か……」
「スキル開発すれば、重力属性になりますよ」


◆【20140808】
「たとえば、そう……」
「うむ」
「『この世界には二種類の人間しかいない。神に愛される者と、そうでない者だ』」
「ふむ。『この世界には二種類の人間しかいない。酒をよく飲む者と、そうでない者だ』」
「『この世界には二種類の人間しかいない。トマトが嫌いな者と、そうでない者だ』」
「二の三乗。ここまでで、八種類の人間がいることになったな」
「これが十個あれば、もう千二十四通りです」
「六十五億などあっという間だ」
「あはは、ですね。……『二種類』がかさなって、それがいつか、六十五億もの個性をつくる。なんだか不思議な話です」
「君や俺も、零と一の集合体というわけか」
「わお、サイバーパンク」


◆【20140813】
「遠くにあっては音に聞け!」
「うむ」
「近くにあっては目にも見よ!」
「ほう」
「夏休みの宿題、終わりましたっ。ほめてもいいんですよ?」
「そうか。では、どのレベルで褒めるべきだろうか」
「ほめ殺しレベルでお願いします」
「……素晴らしい。宿題は後回しにして、最後にまとめてやるか、あまつさえ期間を逸脱するのが常だというに、八月も半ばに入らぬまでに計画的に終わらせるとは。現代の高校生の中にあり、このような快挙はそうあるものではない」
「あの……」
「なんという模範的な生徒であることか。君という存在、その功績は、日本の学生生活全体のレベルを引き上げる事に一役買うに違いない。文部科学省は、ただちにこの事例に注目して然るべき……」
「ごめんなさい。私が悪かったです」
「いや、なに。……ともあれ、お疲れ様。よく頑張った」
「あはは。ありがとうございます」


◆【20140815】
「そんな『アルミ鍋を使うと認知症になる』と大騒ぎしてアルミホイルの不買を始めたり缶ジュースの販売会社に電話したりする主婦みたいに慌てて、どうしたんですか先輩?」
「言いたかっただけだろう、それ」
「準備して来ました」
「ま、皮肉は程々にな」
「はーい……」


◆【20140816】
「漫画や何かのキャラクターで、何と言いますか、あまりにも常識はずれというか……ちゃんとまともに生きていけるのか、心配になるような人物がいますけど」
「電波キャラ、というやつか」
「そう、それ。……先輩は、どう思います? 私は少し、苦手だったり」
「ふむ、そうだな。少し、ずれた話をするのだが」
「聞きましょう」
「『ちゃんとまともに生きていけるのか、心配になる』とは言うが。事実上、その作品世界では、その人物は、今までそこで生きてきたというわけだ。つまりその人物の個性は、その世界では当たり前に評価され、認められてきた、という事になる」
「でも、書かれてないだけかも知れませんよ。実はひどいいじめを受けてきた、とか」
「想像するのは読者の自由かも知れないが、その作業は、あくまで本文の精読に根差すべきものだろう」
「描写から、逆算的に考えてゆくというわけですか」
「うむ」
「なるほど。確かに、先輩の仰る通りではありますが……」
「ま、一つの見方に過ぎないが」
「でも、結局。先輩は、そういうキャラが、苦手なんですか。それとも、そうでもないんですか?」
「苦手だな」
「ぶっちゃけた!?」


◆【20140818】
「『夏への扉』」
「『月は無慈悲な夜の女王』」
「『天の光は全て星』」
「うっとり」
「ああ。素晴らしい」
「……と。場が暖まったところで、もう一つ」
「うむ」
「『モナリザ・オーヴァドライブ』」
「クール……!」


◆【20140819】
「独り暮らしを始めてから」
「先輩?」
「帰り道、家々から漂ってくるうまそうな夕食のにおい。そういうものに、何とも言えぬ郷愁を感じてしまったりしてな」
「私にとっても、もう懐かしい感覚です」
「……すまん」
「あはは、そんなんじゃないですよ。……続きをどうぞ」
「……ああ。今日、帰ってきて、君がいて、君が食事を、用意してくれていて……それが、堪らなく嬉しかったと。そういう話だ」
「先輩」
「ありがとう」
「いえいえ。私だって、先輩に、お世話になりっぱなして……。このぐらいなら、いつでも準備しますので」
「では早速」
「おお」
「おかわりを」
「……あははっ。もう全然、大丈夫です。いっそ、望むところですから」


◆【20140820】
「先輩先輩」
「どうした」
「脱ぎたまえ」
「提案を棄却する」


◆【20140820-2】
「先輩先輩」
「うむ」
「問題です。三つの扉がありまして……」
「扉を選び直す」
「……せめて最後まで言わせて下さいよ!?」
「はは、すまんな。モンティ・パイソン問題だったかな」
「……ボケのレベルが低すぎる!?」


◆【20140821】
「何も、男女に限らなくとも。対人関係というものは、全て崩壊へと向かいつつある」
「ふむむ」
「だから定期的に会合し、言葉を交わす。関係を確認し、事物を贈与する。そうやって、崩壊を遅らせているわけだ」
「なるほど。延長ボタンみたいなものですか?」
「余り気持ちのいい響きではないが、言い得て妙だな」
「まあ、事実ではありますよね。離れていけば、どんどん意識の中から消え去って……」
「……いずれは、記憶の中に仕舞われる事になる。最早、実際のそれとは別物として」
「あはは。誰かの想い出の中で生きるのも、誰かと想い出の中で出会うのも、それはそれで、悪くないかも知れませんが」
「まあ、こうして繋ぎ留められるうちはな。ちゃんと顔を見て、言葉を贈りあいたいと思うわけだ」
「ですね。……先輩」
「うむ」


◆【20140822】
「うだるような暑さって、あの、あれですよ。うでたまごの『うで』ですよ。煮沸ですよ。煮物ですよ。もう大事件ですよ」
「人間、四十二度まで体温が上がると、蛋白質がどうこう云々」
「それは、あれですね。なんか嘘っぽいらしいですね」
「まあ、そうだな。死ぬような病気の時に、結果として、四十二度に上がってることが多いらしいと」
「……」
「……」
「……今、私が、死にそうなんですけども」
「……俺も同じだ」
「クーラー……つけないんですか」
「現実を、認めろ。壊れてたんだ」
「扇風機……つけないんですか」
「残念ながら、つけててこれだ」
「次は、私が壊れますかね」
「俺を取り残さないでくれ」
「さよなら、先輩。でも私はいつも、先輩の熱にうだってました」
「俺だって、ずっと君が好きだった」
「……」
「……」
「……暑い」
「暑い……」


◆【20140824】
「先輩。……最近、ちょっと悩みがありまして」
「珍しいな。どうした?」
「ディズニーとジブリがぐるぐる回り続けて、どっちがどっちか、さっぱりわけがわからないのですよ」
「……仕方ないさ……」


◆【20140824-2】
「この地名、何と読むのでしょうか……あずきしま?」
「しょうどしま、だな」
「ふっふっふ。それが実は遥かな昔、小豆島は『あずきしま』と呼ばれていたらしいのですよ!」
「……しまった、罠か!」


◆【20140824-3】
「山賊焼きならぬ、焼き山賊とかどうでしょう」
「なんという焚刑……」
inserted by FC2 system