彼:
ハリソン・フォードといえば「ブレードランナー」。

後輩:
ハリソン・フォードといえば「スターウォーズ」。


◆【20140309】
「お昼時だな」
「ですねえ」
「うどんでも茹でるか。量はどうする」
「んー、そこまででもないような、でも結構いけるような」
「煮え切らんな」
「あはは、うどんだけに。……えっと、先輩はどうですか?」
「二玉茹でるか、三玉茹でるか、というところか。君が多めに食べるなら三つだが」
「二つで充分ですよ」
「……っ」
「あ、先輩がツボった」
「……あ、ああ。不覚にも」
「わかってくださいよ!」
「くっ……!」


◆【20140310】
「――ん、あれ……先輩?」
「起きたか」
「……ああ、ごめんなさい。また抱きついたまま寝ちゃってましたか」
「構わんさ。寒くはなかったか?」
「へーきですよ。むしろ暖かかったくらいです」
「そうか」
「そうそう、また夢を見たのです」
「ふむ。どんなだ?」
「んー、そうですね。一言でいうと」
「ああ」
「先輩が、その。すごかったです」
「待て。何がだ」
「聞きたいですか?」
「……やめておく」


◆【20140312】
「先輩は先輩ですけれども」
「うむ」
「そして先輩であり、先輩であり続けるのですけれども」
「そうだな」
「でも先輩が先輩だとしても――変わってゆくものは、あるのです」
「そうかも知れないが。例えば、何だ?」
「たとえば、若白髪」
「何だと」
「後頭部のところに、ちょこっと」
「そ、そうなのか……」
「あはは、ちょっとかっこいい感じですけど。……でも、先輩」
「ああ」
「無理は。なさらないでくださいね」
「……ああ」


◆【20140314】
「あらいしきかいてんちゅーせんき」
「福引の機械の事か」
「回し続けていると、最後に赤玉――」
「そうしたネタには、感心しかねるところだな」
「……はあい」


◆【20140315】
「たとえば……」
「ああ」
「風に乗ったたんぽぽの綿毛が、手のひらに降りてきたりですとか」
「酔い醒めに飲む水が、妙に美味かったりだとか?」
「雨のふる日、大きな葉っぱの影に蛙を見付けたりですとか」
「深夜起き出したとき、月明かりが真っ青なのに気付いたりだとか?」
「うん……そう、そんな感じです。大切だと思うんですよ。毎日の、当たり前の中に、当たり前じゃない何かを見付けることは」
「ああ。さもなくば……」
「心が枯れてしまう、ですね」
「そうだ。心が枯れ、感動が消え感懐が絶え、それはもう生きているとさえ言えるかどうか」
「だから、先輩」
「ああ」
「私は、いろんなことがしてみたいです。いろんな景色を見て、いろんな場所を知って。それでそこに、先輩がいてくだされば……」
「願ってもないことだ」
「あ……」
「幸せに思う。君がここにいてくれることを」
「……はいっ」
「だから、と言っては何だが」
「ん、どうしました?」
「こんな季節だが、海へでもどうだ。うまい烏賊焼きが食える」
「おお、良いですね。それに、それはもちろん……」
「今からだ」
「あはは、ですよね。じゃあ、ちょっと準備してきますっ」


◆【20140318】
「聞いても良いのか、何やら微妙なところなのだが」
「む、何ですか?」
「学校生活の話題を、あまり出さないような気がしてな」
「んー、えっと。聞きたいのですか?」
「そうだな。君のこと、君の話であるならば」
「……先輩に、そう言って頂けるのは。すごくすごく嬉しいのですが」
「勿論、嫌なら構わないが」
「ん。いや、と申しますか」
「ああ」
「だって、学校の中だと。先輩が、『先輩』じゃないでしょう?」
「――すまん。失言だった」
「あはは、謝って頂くことではないですが。でも、私は……私は、ずっと、先輩だけの『後輩』でいたいから」
「……そうか」
「ね、先輩」


◆【20140319】
「ねえ、先輩」
「どうした」
「疑問って、尽きないものですね」
「ああ」
「毎日毎日。まったく理解できないものに行き当たって、一生懸命考えて、それでもわけがわからなくて……」
「或いは、分からぬままにしておく方が良いかもな」
「そういうもの、でしょうか」
「ああ。無理に解釈する必要などないさ」
「それでも、理解したいものはあるのです」
「ふむ」
「例えば。――ぷきぷきぱよーって、結局なんなのですか?」
「……知らんがな」
「教えてせんぱいさん」
「雑なネタに逃げるな」


◆【20140321】
「そういえば、先輩」
「ああ」
「この部屋にも、私のものが増えてきましたけど」
「そうだな」
「あの。先輩、おいやでしたら……」
「答えが分かり切っている質問は、余り感心しかねるな」
「……うん、ですね……、あはは。ごめんなさい」
「良いさ」
「じゃあ、先輩」
「うむ」
「そろそろ、いえすのー枕でも置いてみましょうか」
「また、要らぬ知識を持ち出すものだ」
「あるいは、いえすいえす枕」
「逃げ場無しか」
「さもなくばのーのー枕?」
「殺伐としているな」
「冗談さておいて」
「うむ」
「クッションみたいなものは、ちょっと欲しいなって思います」
「すまん、気が回ってなかったな」
「いえいえ。……折角なので、ペアで揃えてみたかったりも」
「悪くないな。行くか」
「はいっ」


◆【20140323】
「ねえねえ先輩」
「ああ」
「赤信号って、赤いですかね?」
「……突然の哲学的問題提起とはな」
「でも少なくとも、青信号は青くないですよね」
「文化圏によるのでは……」


◆【20140324】
「いふあいきゃんりーちざすたーず」
「……」
「ぷーるわんだーうんふぉゆー」
「……」
「しゃーにっおーんまいはー」
「……」
「そーゆーくしーざとぅるーす」
「……」
「ざっでぃすらぶあいはぶいんさーい」
「……」
「いずえーぶりーしんぐいっしーむず」
「……」
「ばっふぉーなーうあいふぁーうん」
「……」
「おんりーいんまいどりーむす」
「……」
「あいきゃん……あ、ところで先輩」
「そこで切るのか」
「えっ……ご、ごめんなさい」


◆【20140326】
「上手く、言えないのですけれど」
「構わんさ」
「サンタクロースは。いると思うのです」
「ふむ。観点次第としか、言い様もないが」
「たとえプレゼントを届けたのが、トナカイを連れたお爺さんではなくて、その子供のご両親だったとしてもですよ」
「ああ」
「そこには、『子供にプレゼントを届ける』という行いが、想いが、確かに実在するのです」
「なるほどな。その行為と感情は、『サンタクロース』以外の何ものでもありはしない」
「だから、ちょっと寂しいのです。もこもこした赤い服を着ていなくたって、空飛ぶソリに乗っていなくたって、サンタクロースであっていけない理由には、決してならないはずなのに」
「……そう考えられる君は、聡明だ」
「あ、ありがとうございます?」
「君も、いつか、サンタになる日が来るのだろうか」
「ふむむ。なんか、想像もつかないですね……」
「いいサンタクロースになれるさ」
「あはは。だといいですが」


◆【20140328】
「先輩。このアルバムは?」
「ああ。それはパンク史における重要な一枚で」
「いんりょくまじん?」
「……カート・コバーンもお気に入りに挙げている」
「いんりょくまじん……」
「……うむ……」


◆【20140330】
「ねえ先輩。エナメルバッグって」
「ああ」
「高校生の特権ってイメージ、ありません?」
「言われてみれば。あれをああまで違和感なく提げて歩くのは、中高生以外には難しい」
「ですよね。これはもう、専用装備みたいなものではないのかと……」
「ふむ。年齢と肩書きの象徴か」
「ん。そんな感じですかね」
「その類、大学生にもあったな」
「と、言いますと?」
「きこりベスト」
「……えっと」
「そしてリュックサック」
「あはは……」


◆【20140401】
「ねえ先輩、今日は」
「自分に嘘は吐かない」
「あっ、はい……」


◆【20140402】
「ときめきは裏切らない」
「ふむ」
「だそうですよ、先輩。ふふふ」
「おっと。……今日はやけにくっつくな。どうした」
「いえいえ、別に。ただのときめきですよ」
「そうか」
「そうなのです」
「ときめきなら仕方ないな」
「ええ。仕方ないのです」


◆【20140407】
「ちょっと思いついたのですけど、先輩」
「うむ」
「適当な和歌の上の句にですね。『われ泣きぬれて蟹とたはむる』と付け加えれば、割となんとかなるような気がしませんか?」
「そうだろうか」
「実践あるのみです。では先輩、上の句をどうぞ」
「無茶振りか。……久方の光のどけき春の日に」
「われ泣きぬれて蟹とたはむる」
「世の中にたえて桜のなかりせば」
「われ泣きぬれて蟹とたはむる」
「春の夜の夢の浮き橋とだえして」
「われ泣きぬれて蟹とたはむる」
「桜花散りぬる風のなごりには」
「われ泣きぬれて蟹とたはむる」
「……なんとかなっただろうか」
「微妙でしたね……」


◆【20140408】
「それに、なんてったって先輩……あれ?」
「どうした」
「これ、ちょっと面白くないですか。なんてったって」
「リズムが良いな」
「なんてったって、『突っ立って』って言ったって、みたいな」
「噛みそうで噛まないな……」


◆【20140409】
「先輩、またあかでみっくな議論でもしてみましょう」
「ふむ。議題は?」
「『二次創作における独自設定が公式化することの是非について』」
「……やめておいた方が良いのでは」
「私もそんな気がしてきました……」


◆【20140415】
「ねえ先輩」
「どうした」
「この瓶……『トニックウォーター』って。どういうものなのですか?」
「カクテルの割り材だな。ジントニックやスプモーニで有名だが、柑橘風に味付けされた、爽やかな炭酸飲料で……」
「つまり?」
「……フルーツソーダ」
「フルーツソーダ……」


◆【20140418】
「狭いですよね。世界って」
「突然だな」
「何と言いますか、歩いてゆける世界は、思ったよりもずっと狭くて。自転車なら、もっと遠くまで行けると思ったのですけれど、やっぱり世界は狭いままで」
「バスに乗ればどうだ」
「バスで行けるところまで、ですよね」
「船や飛行機ならば?」
「ちょっとは広くなるのかもしれませんけど……」
「……ま、確かにな。当たり前だが、行ける範囲は、行けるところに限られる。行けないところまで、行くことは叶わない」
「だから、世界は狭いな、と」
「だが。狭いなりには、広いんじゃないか」
「あはは。先輩らしい言い回しです」
「……。そうだな」
「ん、先輩?」
「折角ならば、行ってみるか。行けるところまで。世界の果てまで」
「……」
「列車に乗って。行先を決めず」
「……はいっ。行きたいです、見てみたいです。狭い世界の、その端を」
「ま、旅行ということではあるが」
「ですね。ふふ、楽しみです」
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