彼:
男性。二十三歳。社会人。
理屈で物事を判断するが、わりとなんでも受け入れてしまいがち。
愛が重い。

後輩:
女性。十五歳。高校生。
捨て鉢なところがあり、極端な行動に走りがち。
愛が重い。


◆【20140129】
「つまり、先輩には私の留置権があるってことですよね?」
「何だ、それは」
「ふふふ、愛の善管注意義務」
「もし俺が背信的悪意者だったらどうするつもりだ?」
「先輩は無条件で善意無過失推定されるのです」
「まいったな」


◆【20140130】
「先輩。今日は月が綺麗ですね」
「何やら思わせぶりだな」
「いーえ。ただ本当に、月が綺麗だなと思ったんですよ」
「そうか」
「でも、先輩のことは大好きです」
「……そうか」


◆【20140131】
「『鍋を囲む』と言うじゃないか」
「はい、言いますね」
「二人だと、また変わってくるのだろうか。『鍋を挟む』などと」
「ひとりだと『鍋に向き合う』?」
「修行めいているな。ま、実際寂しくはあるが」
「あはは。……えっと、先輩」
「どうした?」
「今晩、水炊きでも挟みませんか?」
「うむ」


◆【20140201】
「蛇蝎の如く、って言いますけど」
「嫌悪と憎悪の対象としての、か」
「ぶっちゃけ私、ヘビもサソリも結構好きなんですよね」
「まあ、言われてみれば。さして嫌う要因も無い」
「ですよね。ステルスバイパーにガイサックに……」
「デススティンガーじゃないのか?」
「ちょっと外したいお年頃なのです」


◆【20140202】
「さて、先輩。ここに鱚の天ぷらがあります」
「あるな」
「これをこう、裏返しますね」
「裏返したな」
「更にこれをこう……もとに戻します。……ね、先輩」
「……飯食い終って、歯も磨いてからな。冷めるぞ」
「はあい」


◆【20140203】
「空が青いな、と」
「ん――先輩?」
「何だろうな。最近、空が青くて、風が気持ち良くて、日差しが暖かくて、それだけのことで、泣きそうになるくらい嬉しくて。おかしいな」
「それは……おかしくなんか、ないですよ」
「そうか?」
「だって、空が青くて、風が気持ち良くて、日差しが暖かくて。こんな素晴らしいことなんて、ちょっとありませんよ。そりゃ泣きそうにもなりますって」
「ああ……そうか。いや、そうだな」
「はい。だから、先輩……少し、遠回りして帰りませんか?」


◆【20140207】
「先輩先輩、雪ですよ雪」
「雪だな」
「反応薄いですよー先輩。だってほら、雪なんですよ。凄いですよ」
「確かに、珍しくよく降っている。積もるだろうか」
「積もるかもですよ」
「積もればどうする」
「決まってるじゃないですか。そりゃもちろん――」
「――そりゃもちろん。引き籠って、こたつでぬくぬく」
「うわ、心読まれた!」
「そもそも、現にしているところだろう」
「だってほら、寒いんですもん」
「ま、そりゃそうだ。……茶でも淹れよう。待ってな」
「ああ、そのぐらいは私がします」
「そうか? 悪いな」
「いえいえ、先輩にはお世話に……あ」
「どうした」
「お茶を淹れようと思ったら、こたつから出なきゃいけないんですね……」


◆【20140211】
「先輩。お帰りなさい」
「ただいま。来てたのか」
「どもども、お邪魔してます」
「……しかし、凄い格好だな。こたつむりという奴か?」
「猫ですよ。家猫娘です」
「ならば、猫の鳴き真似をしてみてくれ」
「みゃうん」
「ああ、可愛いな」
「雑!」


◆【20140213】
「先輩先輩」
「どうした」
「寒い日にですね。部屋の窓を全部あけっぱなしにして、お布団にくるまるのって、凄く楽しいと思うんですよ」
「ああ。冬の日の露天風呂が、心地良いのと同じ様なものか」
「ですです。おわかり頂けるでしょう?」
「まあな。悪くないものだ」
「はい。……ですので。こうして私が先輩に抱きついているのは、ごく自然なことなのです。おかしなことではないのです」
「そうか」
「抱きつきまくりですよ」
「抱きつきまくりか」


◆【20140215】
「あれあれー。何だかチョコレートが随分お安く売られてますねー」
「本当だなー。おかしいなー。何でだろうなー」
「これなんて半額らしいですよー。太っ腹ですなー」
「まるで売れ残りみたいだなー。不思議だなー」
「……こほん。というわけで、今年もやってまいりました、『何故かチョコが安くなる日』」
「面白いものが、残っていると良いのだが」
「あ、先輩。これよくないですか? ココアパウダーとホワイトチョコで、化石発掘」
「少年的な冒険心を擽るな。……俺はこの、カラフルなペンギンが良いと思ったが」
「お、可愛い系ですね。じゃあ、このまるくなった猫はどうです?」
「ああ、それも良い。煉瓦の街の陽だまりの猫、というデザインか」
「ですね、猫の街。先輩、どうします?」
「猫を頼む。そっちは化石でいいか?」
「はい、お願いします。……いやはや、今年はあたりでしたね」
「だな。ウァレンティヌスに感謝だ」
「一日遅れですけどね」


◆【20140217】
「先輩、たまにはあかでみっくな議論でもしてみましょう」
「ふむ。議題は?」
「『方向という意味にのみ着目してベクトルという単語を使う事の是非』」
「……なんという、どうでもいい割に面倒な話題」
「私もそんな気がしてきました……」


◆【20140218】
「やまない雨も、ある。そう、思うんです」
「ああ」
「だから。寒くて、暗くて」
「誰もが傘を買えるわけじゃない、か」
「高いんですよね。思ったより、ずっと」
「だが、傘なら」
「……先輩?」
「俺が持っている。一本だけだが、大き目の奴を」
「あの、じゃあ……先輩。私は」
「入ればいい。一緒に、どこまでも歩くさ」
「……ん。よろしくお願いします、これからも」
「ああ。……しかし、何の話だろうな」
「あはは。そりゃ、明日の天気のお話ですよ」


◆【20140219】
「先輩、何か邪悪なこと言って下さい」
「ふむ。……『飲みが足りないんじゃないのか?』」
「うわ、ほんとに邪悪!」


◆【20140220】
「もしかしたら。昨日の私と今の私はまるで別物で、今の先輩は昨日の先輩とは別人で」
「だろうな」
「世界はあやふやで。不確かで。それは今生まれたのかもしれなくて、本当はないのかもしれなくて」
「かもな」
「先輩は。ねえ、先輩は……」
「ああ」
「先輩は、明日も私の『先輩』ですか?」
「心配するな」
「でも」
「変わらないものはあるさ。変わるものがあるように」
「だとしても……うわっ。あの、先輩」


◆【20140222】
「待ってくれ。プレスリーは死んではいないだろう」
「あの、先輩」
「彼はモンゴルに渡ってチンギス・ハンに……」
「混ざってる混ざってる」


◆【20140224】
「ろーらくします」
「篭絡?」
「先輩を、ろーらくしちゃいます」
「俺を、篭絡」
「ろーらくしちゃいますよー?」
「なるほど。これは、篭絡されざるを得ないな」


◆【20140301】
「女の子の髪の毛から甘い香りが、っていうのは」
「うむ」
「多分、シャンプーの落とし忘れか何かだと思います」
「夢を壊すな」
「あはは。ごめんなさい」


◆【20140302】
「電卓の騎士」
「で、電卓」
「公認会計士アーサーと、十二人の秘書達」
「多いな、秘書」
「うふふ。愛用の電卓、えくすかりばー……」
「……眠いのか?」
「……かもです」


◆【20140304】
「ああっ、先輩ったら、またこたつで寝てる。まったくもう、だらしない先輩ですねー。先輩には私がいなきゃだめなんですからー。……」

「……という夢を見ました」
「炬燵で寝ながらか」
「あはは」
「良い度胸だ」


◆【20140306】
「ぱっぽー、ぱっぽー」
「ふむ」
「ぴよ、ぴよぴよ」
「……歩行者用信号機か」
「ふふ、運命の交差点」
「上手く渡り切れるといいが」
「でも、信号待ちの時間もいいものですよ」
「同感だな。信号無視などもせずにいたいものだ」
「ですね。それに人通りも多そうなので……」
「手でも繋いでおくか」
「あはは。……えっと、こんなふうに」
「ああ」
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